第三百五十六話 葵side
先輩は来てくれた。私たちはふたりきりで海岸に立っている。絶好の環境。
たぶん、私は勝てない。でも、しっかり区切りをつけなくちゃいけない。そうしなければ、前に進めない。
今までは、私は桂太先輩のために将棋をしていた。でも、このままではもうそれはできない。わかってる。このままではもう限界だ。
私は先輩が好きだ。たぶん、先輩は私のことを後輩としか考えていない。でも、一縷の望みがあるのならばそれにすがりたい。
だから、私は動く。奇跡を起こすために……
※
「やっぱりだめだったか」
先輩が帰った浜辺で私はひとりたたずむ。きらきら光る砂に座りこむ。こうなるとわかっていたのに、実際に体験するとショックだった。
「はぁ」
ため息をつく。妄想してしまうのだ。もし、かな恵ちゃんが桂太先輩の妹にならなかったら…… もし、私が部長よりも早く桂太先輩に出会えていたら……
たぶん、結果は変わっていたと思う。
未練がましくそんな妄想が止まらない。
私には、ふたつの選択肢がある。
一つ目は、すっぱりと桂太先輩のことをあきらめること。
二つ目は、あきらめずに機会をうかがいつづけること。
どちらにしてもいばらの道だ。だから、私はより困難な道をいく。
桂太先輩が選んだ人と未来永劫うまくいくとは限らない。だから、がんばって機会を待つ。月にそう祈って私は合宿を終える。月はとてもきれいだった。




