第三百五十話 女の子として……
「わたしのこと…… 女の子として好きですか?」
かな恵はいつになく甘えた口調だった。いつもはどちらかというとクールなイメージが強い彼女がこんなに甘えた口調になるなんて……
いろんな意味で、俺はドキドキが止まらなくなる。
「どう、なんです、か?」
そもそも俺にとってかな恵ってなんだ?
仲の良い義妹か?
大切な家族か?
それとも……
大事な好きな人か……
「かな恵は、どうなんだよ? 俺のこと、どう思ってるんだよ?」
男らしくないずるいやり方だとわかってる。
「質問を質問で返すんですか?」
「俺だってずるいってことはわかってるよ。でも、かな恵にとって俺はどんな存在なのか、知りたいんだ」
「桂太さんは、私にとって大事な存在ですよ?」
「大事な存在?」
「さびしがりな自分を支えてくれる人。将棋を指す理由をくれる人。ずっとずっと一緒にいたいひと……」
「それは家族として? それとも異性として?」
「最初は家族としてだと思っていました。でも、兄さんとしての存在が大きくなればなるほど、違う感情も見え始めてきて……いろんな気持ちがせめぎあって……わからなくなっちゃいました」
「それは、いまも?」
かな恵はうなづく。
「でも、少なくとも一度は、桂太さんのこと、好きかもって思ったこと、ありますよ……」
かな恵はそう言って、俺の胸に崩れ落ちるように寄りかかってきた。
「私は正直に言いました。だから、次は兄さんの番ですよ……」
「ああ」
俺も覚悟を固める。今思っていることが自分の本心かはわからない。
でも、今言わなくちゃいけないことはわかっている。だから、今の気持ちを正直に伝える。
俺が誰のことを好きなのか、を……
「俺は、かな恵のこと……」
そう言った瞬間、かな恵の力が弱まった。
えっ?
「かな恵?」
「スー・スー」
彼女は気持ちよさそうに寝息を立てていた。
そっか、寝ちゃうよな。しょうがないよな。
俺は安心感といろんな意味での悔しさをこめて窓から空を見た。
曇りの影響で、星も見えない漆黒の空しか見ることができなかった。




