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第三百四十五話 カレー②

<葵side>


 みんなが将棋中継に夢中だ。

 対局は、序盤からの力勝負で殴り合いの状況だ。

 桂太先輩も準決勝で、山田さんの力戦形相がかりだったな。あの時は、中飛車みたいになっておもしろかった。たしか、100年くらい前に流行った戦い方らしい。


 部長もかな恵ちゃんも将棋中継に夢中だ。

 私は、密かに進めていた計画を実行に移す最大のチャンスだと確信した。

 ひそかにリビングを抜け出して、台所に向かう。


 そう、これは絶好の女子力アピールポイントだ。

 ライバルの二人もいるし、ここは家庭的なところを見せつけて、ふたりの戦意を削ぐ。

 桂太先輩には、何度か手料理を振る舞っているけど、ここは戦場。


 意中の相手だけじゃなくてライバルたちの動向も考えて動かなくてはいけない。

 だからこそ、心理的な側面でもここで私の家事力をみせておくのは悪くない。


 そもそも、私は部長やかな恵ちゃんと違って、桂太先輩との物語性が薄い。

 部長は、自分を泥沼から引き上げてくれた恩人"ヒーロー"のように思っている。

 自分が将棋でスランプの時に助けてくれて、助けてくれた理想の王子様。

 そして、先輩と一年間多く過ごしている時間的なアドバンテージも大きい。


 一方で、かな恵ちゃんは、偶然"兄妹"という関係になってしまった運命性はいい意味でも悪い意味でも強い存在感を放っている。今はまだ、その関係性をうまく使えないので、足枷になってしまっているかもしれないけど、歯車がうまく動き出したらどうなるかはわからない。

 あと、ひとつ屋根の下で一緒に住んでいるという地理的メリットもすさまじいはず。


 ということは、私だけなのである。

 完全に関係性は薄いのは……


 部長は、将棋で言うところの序盤型。

 序盤でリードを作って、あとはそのまま押し切る将棋。


 対して、かな恵ちゃんはスロースターターのような終盤型。

 最初はリードされやすいけど、うまく型にはまったら終盤に一気にまくってくる感じの侮れない怖さがある。


 そうなると、私は常にピンチだ。だからこそ、チャンスで小刻みにポイントを稼がなくちゃいけない。

 このカレーは、私の切り札だ。


 先輩は、辛すぎず甘すぎず、ちょうどいい中辛が好きなのはリサーチ済み。

 だから、辛さよりもコクを重視するのがベスト。


 しかし、イイ感じの中辛って結構難しい。

 倫理で中道が一番だと先生が言っていたけど、それができたら苦労しない。

 だからこそ、家で沢山練習した。


 隠し味は、チョコがいいのか、コーヒーがいいのか、オイスターソースがいいのか、すりおろしりんごがいいのか、それともトマトジュース?

 もう、わけがわからないくらい研究した。


 そして、完成したのがこの秘伝のカレーレシピだ。

 野菜の皮で作った出汁べジブロスを使った野菜カレー。昨日の夜、煮込んでいた野菜出汁を秘密裏に密輸した。この会場を提供したのも、すべてはホームの利のため。

 自分の有利な環境で桂太先輩とライバルたちと戦うのだ。

 まろやか重視で、少し辛めのイイ感じのまろやかカレー。

 これが最初の切り札。


 確実に、先輩の舌を陥落させることができるはず。

 ダメよ、まだ笑っちゃダメ。こらえるんだ。しかし……


 私は、みんなの顔を思い浮かべながら、カレーを煮込んだ。

 

 ※


「計画通り」

 私は、心の中でほくそ笑んだ。

 桂太先輩と文人先輩は私のカレーを美味しそうに平らげてしまった。

 そして、二人のライバルたちは……


 悔しそうに、でも、幸せそうにカレーを堪能していた。

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