第三百四十二話 海合宿
2019年最後の更新です。
皆様に読んでいただき、ここまでくることができました。
本当にありがとうございます。
来年は完結に向けて頑張っていきます。
「さあ、みんなついたぞ」
運転手の高柳先生がそう言うと、目の前には輝かしい青い海が……
俺たちは全国大会前の最後の調整合宿として、葵ちゃんの家の別荘を借りて、俺たちは関東近県の海辺に来ていた。そこで一週間みっちりと将棋漬けの日々。
でも、まぁ少しは海で遊んだりしようかなと考えているんだけど。
なにせ、部長・かな恵・葵ちゃんと将棋部の女子は、まさに高嶺の花が集まっている。その水着姿をみれるなんて、高校生男子としては最高のご褒美なわけで……
ほかのクラスメイトに知られてしまうと俺たちは命の危険があるので、かなり気をつかった情報統制をさせてもらった。だって、そうだろう?「嫉妬の業火・非リアフレイム」なんか喰らいたくないよな。
そんなこんなで目的地に到着した俺たちは、各々の部屋に荷物を置くと、リビングに集まって将棋観戦をはじめた……
もう一度、繰り返す。俺たちは、将棋観戦をはじめた……
水着?海?美少女?
なに勘違いしているんだ。俺たちの将棋のターンはまだ終わっていないぜ!?
なんと合宿初日は、将棋のタイトル戦中継と被ってしまったのだ。
はっきり言おう。将棋部なんて、美少女や青春よりも、将棋を優先する狂戦士たちの集団だ。
そんなバーサーカーソウルを持ちえないやつが将棋部に入るわけがない。
俺たちは、玉座戦のタイトル中継をリビングの大きなテレビに映し出して、観戦することとした。
「いよいよはじまりますね」
「そうだね、葵ちゃん」
俺は葵ちゃんと話しながら対局がはじまるのを待った。葵ちゃんは将棋をはじめて間もないために、プロの将棋については少し疎いことがあるので、俺たちは適宜、解説をいれてみることが多い。
「今日は、皆月三冠対木島三冠の頂上決戦ですよね」
「うん。木島三冠は、名人を退けて王竜位を保持して絶好調で、玉座防衛戦。皆月三冠は、春に王聖を奪取して三冠王」
「王竜もタイトル三冠ということは、三冠対三冠の頂上決戦なんですよね。将棋のタイトルって、8個だから、もし皆月先生が勝ったら四冠王。すごい」
「過去にも、三冠同士のタイトル戦は一度だけあったらしいけど、今と同じですごい盛り上がったそうだよ。名人の勝ったのに『先手番なのに情けない将棋を指してしまった』という名言はその時の言葉らしい
し」
「へー」
俺たちは基本的に将棋オタクなので、要らない知識までドンドン披露してしまう。
合コンとかで失敗しないように気をつけなくてはいけないとなんとなく思った。
皆月三冠といえば、「角換わり」。将棋ソフトを使った詳細な研究を活かして、序盤からリードを作り一気に押し切ってしまう将棋を得意としている。どうして、角換わりが研究をいかしやすいのかと言えば、序盤からお互いに角交換をしてしまうため、下手な陣形を組んでしまうと角の打ち込みが発生し、そのまま負けてしまうからだ。
お互いに制限された状況で、序盤を作らなくてはいけないため研究局面に誘導しやすい。
猛烈な研究家として有名な皆月三冠はそれを得意としていた。
この大一番でも、きっと「角換わり」だとみんながそう思っていた。
なのに……
彼の初手は、意表を突いた一手だった……




