第三百四十話 特別編:文人と高柳先生のクリスマス
※作者注
今回はクリスマス特別編です。
本編(現在7月)から5か月後のクリスマス設定です。
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「メリークリスマス、ミスターまるうーち」
「メリークリスマスって、先生どうして、戦場のメリ〇クリスマス風の挨拶なんですか?」
俺は、先生の謎のテンションに戸惑いながら、つっこむ。
「いいじゃないか。しょせんは、ラブコメに参加できない者同士。部室で傷をなめ合ってもさ」
「いや、俺にそんな趣味はありませんから」
「つれないな~」
「先生だって、いい歳なんだから、早く家庭をもったりすればいいじゃないですか」
「はは、桂太くんは例外として、趣味:将棋の一般男性がそんなにモテるわけないだろう?寝言は寝てからいってくれよ」
「そんなリアルな将棋の闇をみせなくても……」
「まだ、現代はいいよ。一昔前なら、将棋は完全にアンダーグラウンドな世界のものだったし……今みたいに女子供がキャッキャウフフやるようなものじゃなかったし……」
そう言って先生は、ぶつぶつと闇落ちする。
いや、先生って、一応公務員で安定した職業なんだし、引く手あまたのはずじゃ……
「それなら、将棋道場で、婚活パーティーとかどうですか?同じ趣味をもった男女が集まるから、結構いいんじゃ……」
「いや、俺たちみたいな将棋ガチ勢は……将棋ライトユーザー女子に……」
「えっ?」
「≪ねぇねぇ、キミは居飛車党?振り飛車党? あっ、四間飛車が好きなんだ。ならさ、山田定跡の▲9七角の局面なんだけど、あのあとどういう方針で指すのが好み?≫とか言って周囲の空気を絶対零度に変えてしまうんだよ」
「なんかリアルなネタがでてきた。というか、今日の先生、闇深すぎる」
「あと、これは友だちの話なんだけど……気になる女の子に……」
「いや、それ絶対本人の体験談でしょ」
「≪キミの瞳に王手飛車取り。キミの心は、ビッグ4のように固いけど、僕は端攻めでキミの心を打ちぬきたい。さあ、一緒にレッツ桂馬打ち≫などと供述して、あえなく玉砕したひとがいるよ」
「闇が深すぎるうううううううううううううううううううう」
「あと」
「やめて、まだあるんんですかああああああああ」
「≪恋愛って将棋に似ているよね? 対局中はずっと相手のことだけ考えて、相手の人はいま何を考えてるんだろうって、考えてしまう≫なんて言ってた後輩もいたよ」
「もう将棋から離れてよ。この将棋脳たちっ!?」
いやだ、こんなリアルしくじり先生のエピソード聞きとうなかった。
「教育者として、キミに助言しておくよ、文人くん。この沼は深すぎる。いいか、どっぷり深みにはまったらいけない。俺みたいになるぞ……」
先生を見て、俺はうなづいた。
「メリークリスマス、ミスターたかやなーぎ」
こうして、俺たちのクリスマスイブは過ぎていく。
鳴りひびく将棋の駒音とともに……




