第三百三十六話 真意と心意②
結局、先生は豊田さんへの対抗策を教えてくれなかった。合宿に向けて、小刻みに教えていくとかなんとか…… 肩透かしを食らった感じだ。
俺たちは、みんなと別れて家に向かった。
「……」
「……」
かな恵はいつもより口数が少なかった。
「ねえ、兄さん?」
なんか口調が冷たくなっていた。すごく怖い。
「なんですかっ? かな恵さん?」
「なんか、すごく他人行儀で気に食わないのは、置いておいて……」
「いや、だってかな恵が怖……」
「なにか言いましたか?」
「いえ、なんでも……」
「まあ、いいです。兄さん、葵ちゃんとなにかありましたよね」
「えっ、なんだって?」
「葵ちゃんとなにかあったんですよね、この鈍感難聴ラノベ主人公気質のモテモテ兄さん?」
「もうわかってるんじゃん。質問の意味ないじゃん」
「答えは、"イエス"か、"はい"ですよ? 兄さん?」
やばい、目がガチだ。嬉野流でガンガン攻めてくる時の勝負師の顔だ。
「はい」
「なにがあったんですか?」
「もう知ってるでしょ、そうなんでしょ?」
「ごまかさないでください」
「ごめん、少し恥ずかしくて、さ」
「兄さんの口から聞きたいんです。バカな妹の、バカなわがまま、聞いてください」
「うん」
俺は、深呼吸して妹に真実を告げる。
「昨日、葵ちゃんに告白されたんだ」
「やっぱり、そうですか…… どこで、告白されたんですか?」
「葵ちゃんの家……」
「はぁ?!」
「いや、葵ちゃんのおじいちゃんに頼まれて、たまに対局したりしていて、さ……」
「はい」
「昨日もその日で、遊びに行ったら……その、いきなり」
「なるほど、後輩とお家デートを楽しんで、イチャイチャしていたら、ついに本気になってしまったということですね、わかります」
「いや、デートじゃなくて、ただの将棋だよ?」
「兄さん……」
「なに……?」
「女の子と、二人で帰って、お家で将棋をするのがデートじゃなくて、何になるんですかね?」
「いや、でもさ……」
「兄さん、このネット辞書のここの項目を読んでください」
そう言って、かな恵は携帯の画面を突きつける。
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デート
《名・ス自》(親しい)男女が日時を決めて会うこと。その約束。
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あれれ~、デートってこんな感じの意味なんだ。身近すぎてよく意味を知らない単語だったんだな~
そっか、デートか。
日時を決めて会うだけで、デートか……
「負けました」
「当たり前です。それで、葵ちゃんの告白にどう返事したんですか?」
俺は潔く投了したものの、かな恵は許してくれなかった。
「それが……」




