第三百三十三話 プリン
「誰だ、俺のプリンを勝手にたべたやつは?」
俺は叫んだ。
部室にはいつもの面々……
「さあ、誰だろうね?」
そう言って文人は、スプーンを隠した……
おいっ!? 空気を吸うように嘘をつくな。
「わたしじゃないですよ?」
葵ちゃんは唇に少しだけ黒いソースのようなものがついていた。
あれれー、おかしいぞ。葵姉ちゃんの口にカラメルがついてるぞ~
「いやね~、プリンなんて知らないわよ?」
そう言って部長はテーブルに散乱していたプラスチック製の蓋をゴミ箱に捨てる。
なんて早い手刀。俺じゃないと見逃しちゃうな。
「もしかして、私たちが食べたって言うんですか?面白い推理ですね。兄さんは、探偵じゃなくて小説家になった方がいいんじゃないですか?」
いや、それ完全に犯人側の主張だから。それ言ってて、犯人じゃない容疑者なんてほとんどいないから……
「これはあれですね。この中に犯人がいるというミステリーサークル的ななにかですね。でも、みんなアリバイがある。まさに、密室」
葵ちゃんがテンションをあげてごまかそうと必死だ。
それに全然、密室じゃない。
「いい、桂太くん?私たちは将棋部よ。真実は将棋で決めましょう」
部長?完全にみんなを裏切ってませんか?
「誰が犯人なのか、”私、きになります”」
いや、かな恵。完全にぱくってるから。それ、アイスクリームだから。
「いいね。桂太と俺が相棒役になって探偵編スタート。シリーズ第二幕だ。ホームズはきみにゆずってあげるよ」
おまえが犯人だよ、ワトソン君。
「いい加減、白状してください」
「「「「ごめんなさい」」」」
「どうして、勝手に食べたんですか?」
「それはね。冷蔵庫に残っていたから……」
どうやら部長が主犯のようだ。勝手に犯行の詳細を語ってくれる。
「まったく、今度同じプリンを買っておいてくださいね」
「「「「はい」」」」
とりあえず、これにて一件落着だ。あんまり、百円のプリンで事を大きくするべきじゃない。
それに、昨日の葵ちゃんとの出来事だってある。俺も、かなり動揺しているんだ。
気分を落ち着かせようと、スマホを開き、いつもの将棋情報サイトにアクセスする。
ここでは、「早繰り銀くん」と呼ばれるこのサイトでは、プロアマ問わず将棋の情報があふれている。
関係者のSNSやブログまでまとめられているこのサイトは、速報性では将棋界最強クラスだ。
俺もなにかおもしろい記事はないかと適当にスクロールする。
そこで俺は、衝撃的な記事を発見した。
「なあ、みんなこの記事…… この記事を見てくれ!」
みんながぞろぞろと俺のスマホに集まる。
「これって……」
部長が言葉を失った。
画面には、俺たちがよく知る人物の名前が映しだされていた。
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「新旧プロハンター、西日暮里で激突!?」
「伝説のアマ名人高柳氏、15年ぶりに表舞台に現る。現役復帰か?」
「とある道場で、事実上のアマ最強決定戦勃発?」




