第三百三十一話 ふつう
<葵side>
先輩をむりやり私の家に誘った。
おじいちゃんと共謀して、私は先輩を罠にはめたのだ。
いや、先輩だけじゃない。
私は、部長もかな恵ちゃんも罠にはめたのだ。
誰もが予想していない時を狙って、先輩に対して奇襲をかける。
まあ、部長だって私たちに奇襲をかけたのだから恨みっこなしだ。
かな恵ちゃんは……
もう少し、自分に素直になった方がいいと思う。
でも、これは将棋と同じ真剣勝負。
手を抜いたら間違いなくライバルたちに負けてしまう。だから、ここで手を緩めてはいけない。
一気に攻め切らなくちゃ、私は負けてしまう。
かな恵ちゃんに聞いた。部長は、特別な日に、特別な時間、特別な場所で、先輩に気持ちを告げたようだ。あの大会の余熱にうなされて、ふたりだけの決勝戦を堪能したあの日に、ふたりきりの公園で告白した。部長が先輩にどのような気持ちを抱いているのかがよくわかる。
部長にとって、桂太先輩は特別だったんだと思う。
自分の将棋だけしかなかった人生に現れた白馬の王子様。
悩みながらも自分を新しい場所に連れていってくれる救世主。
だから、特別なんだ。
部長にとって、桂太先輩は……
でも、私にとっての桂太先輩は違う。
私にとって、桂太先輩は普通の延長線上にある優しい人。
今後は、常に一緒に歩いていきたい人。
変な冗談で一緒に笑い合って、たまに楽しく詰将棋をしたり、勝ったり負けたり将棋を指す。
たまに、一緒に勉強したりして、普通の、でもたまに特別な高校生活を一緒に送りたい大切な存在。
部長が求めている桂太先輩の理想像とはまた、真逆にあるのが私の桂太先輩像なんだ。
だから、私は特別な場所で告白はしない。
いつもの私を見てもらう。
それをしなければ、私が目指す二人の関係にはなれないから……
普通に私の家で遊んで、普通に一緒に料理をして、楽しい夕食を食べる。
それが私が目指す先輩との目的地。
だから、わたしはこのロマンスもあまりない状況で、人生はじめての告白をする。
それが私たちの理想像だから。
玉ねぎのせいか、少しだけ目が潤む。
「でも、俺これなら手伝うことないよね」
先輩が私のことを褒めてくれた。それがどうしようもなく嬉しかった。
「ああ、それは先輩と二人で話をしたかったからです」
ついに告白の終盤戦。私は一気に寄せの形をつくった。
「えっ」
先輩は奇襲攻撃で、陣形のバランスを崩す。
私はチャンスを逃さない。
「いつもの私を見てほしかったんです。なにも飾らないいつも通りの私を……」
「どういうこと?」
本当にどんかんな主人公だ。将棋の盤上ではあんなに勘が鋭いのに……
「私が先輩を好きだと言ったらどうしますか?」
「それは……」
部活の先輩として? それとも男として?
先輩ならそう聞くに決まっている。
「もちろん、異性として、です」
私は強く断言した。




