第三百三十話 奇策
「あの~葵ちゃん?」
「なんですか?桂太先輩?」
「いつまで続けるの、俺、もう……」
「だらしがないですね~男の子じゃないですか?まだまだ、私は満足していないんですから……」
「いやでも……」
「もっともっとふたりで楽しくなりましょう。楽しすぎて頭が溶けちゃいそうです」
「たしかに楽しいんだけど、それとこれとは……それに俺、もう限界……」
「かわいいな~先輩は……でも、私のアプローチを無視して、部長にお熱な先輩には罰ゲームです。さあ、もう一回、しましょ?」
「らめえええええええええええええええええええええええええええええ」
俺たちは部室で、葵ちゃんが満足するまで楽しんだ。
「次は11手詰ですよ、桂太先輩?」
詰将棋早解き競争を……
というかこのオチ何回目だよ?
※
「まったくだらしがないですね」
「いや、2時間で100問以上解いたよね?俺たち……」
「私はまだまだ余裕ですよ?」
「俺の脳がアへ顔ダブル○ース状態です」
「先輩は将棋があんなに強いのに覇気が足りませんよ。にらんだだけで敵が倒れるくらいの漫画を見習ってください」
「いや、それなんていう色の覇気?」
「ねえ、先輩?よかったら今日、私の家で将棋しませんか?かな恵ちゃんは友達の家に遊びに行くとかでひとりって言ってましたよね?」
「いいけど、海外に売り渡したり、臓器売買とかはやめてくれよ。生存権だけは保証してください。本当にお願いします」
「しませんよ、そんなこと。少なくとも、今は……」
「その含みも怖いからっ」
「だって、先輩がひどいことを言うから」
「えっ」
「私だって結構、勇気を出して言ったんですよ?」
「ああ、ごめん」
「それに……」
「それに?」
「実は、今日、両親いないんです。ふたりとも仕事の出張で……」
「えんだあああああああああああああああああああ」
※
「くそ、どうしてうまくいかないんだ」
「落ち着いて、先輩。ゆっくり優しくお願いします」
「ああ、くそ。でも、もう我慢できない……一気に詰ませる」
そう言って俺は、葵ちゃんのおじいさんの王に即詰みをしかけた……
「あーあ、おじいちゃん、負けちゃったね」
「残念だわい。一手差負けじゃな」
「いや~最後の詰みがわかりませんでしたけど、踏み込んでよかったです」
「さすがは桂太先生じゃ。儂もまだまだがんばらねばな~」
「じゃ、なくてっ!」
俺は大きな声をあげてつっこみをいれる。
「裏切ったな。俺の純情を裏切ったな。かな恵と同じで裏切ったんだ」
「そんなシンジくんじゃないんだから~それに両親はいないと言いましたけど、おじいちゃんはいますよ。当たり前じゃないですか」
「同じ話で同じオチを二回も入れるなんて反則だから」
「そんなメタ発言されても困りますよ~300話以上、頑張ったのにどうして世界観くずしちゃうんですか……」
「だって、だって……」
俺は思わず泣き崩れかける。
「すまんの~儂が、桂太先生と将棋をさしたいと葵に頼み込んだのじゃよ。特上寿司を出前するからそれで許してくだされ~」
「ふたりとも、絶対に俺のことをはめたでしょう?」
「「なんのことだかさっぱり??」」
「やっぱりかああああああああ」
「じゃあ、私、お味噌汁作ってきますね。先輩も少しだけ手伝ってもらってもいいですか?」
※
「手際いいね。葵ちゃん」
「これでも料理結構好きなんですよ」
俺が手伝う間もなく、葵ちゃんは味噌汁を完成させた。キャベツやタマネギなど入った具だくさんの野菜味噌汁。手際の良さから彼女が本当に料理が好きなことがよくわかる。
「でも、俺これなら手伝うことないよね」
「ああ、それは先輩と二人で話をしたかったからです」
「えっ」
「いつもの私を見てほしかったんです。なにも飾らないいつも通りの私を……」
「どういうこと?」
「私が先輩を好きだと言ったらどうしますか?」
「それは……」
「もちろん、異性として、です」




