第三百八十九話 ラブコメをぶっ壊す会
「みなさまこんにちは。いかがお過ごしでしょうか。司会の高柳です。日曜のひととき、研ぎ澄まされたラブコメの好手妙手の数々をお楽しみください」
「……」
「それでは、今日の解説を紹介します。丸内文人アマ三段。角換わりを得意とする居飛車党です。今日はよろしくお願いします」
「あの~先生?日曜日だから全国大会に向けて、稽古をつけてくれるって言ってましたよね」
「ああ、言ったね」
「で、どうしてN〇K杯のオープニング風のはじめかたなんですか?それも清見女流風……少し古いです」
「さすがは、将棋部員だね。このモノマネの元ネタがわかるなんて…… 飲み屋のお姉ちゃんにやっても全然うけなかったのに」
「いや、どうしてやったし……」
今日は日曜日。元アマ名人の先生が秘密特訓をしてくれるというから喜んできたのに…… 朝から変な茶番に巻き込まれてしまった。というか、NH〇杯の物まねって、わかるやつは将棋好きしかいないだろうに。もっと有名どころで、例えば、マングースにらみとか……いや、これもマイナーか。もう、何十年も前の話だし……
(ラブコメ?ドキドキだよね。序盤・中盤・終盤、萌え死ぬと思うよ)
(えーっと、そうですね。これはね、あのその、私がね。名人を取った時の棋譜ですね。あのときはうひょーって思わず飛び跳ねましたね、はい)
これくらいが一般人がかろうじてわかるネタだと思う。
「ところで先生、ラブコメの妙手って言ってましたけどなんのことですか?」
「ああ、それはね、最近部室で巻き起きているラブコメのことをさ、のけ者にされている者同士、愚痴り合えたらと思ってね」
「言わないでええええ。必死に気がつかないようにしていたんですからあああああ」
「まあ、僕は大人だからいいけど。文人くんは健全な高校生だし、かわいそうだよね~」
「激辛流は将棋だけにしてください」
「でも、驚いたよね~ 米山君が棋風とは真逆に攻める攻める。葵ちゃんが、部長の攻撃に気がついて一気に切り合いを挑むのは、やっぱり若さだよね~いつもの彼女の棋風とも一致していて僕は好きだな~それとは反対に、かな恵ちゃんは受けに回りすぎだよね。最初は、盤面が米山君と逆かと思ったよ~」
「そんなドロドロした現実を見せないでくださいっ」
「ちなみに文人くんは誰が優勢だと思う……」
「そりゃあ、攻めてる部長じゃないですか?やっぱり、固い、攻めてる、切れないは現代将棋の基本……」
「それは違うよ」
「そんな、なんとかロンパじゃないんだから」
「ソフト誕生以降の将棋の潮流はバランスだろう?桂太くんとあの三人の中で誰が一番バランスがイイ関係を作れているかわかるだろう?」
「先生は葵ちゃん押しですか」
「うん。ぶっちゃけ、あの三人の中で桂太くんと一番相性が合うのは彼女だと思う」
「たしかに……」
あのふたりは、知らないうちにいつもしゃべってるし……
ふたりでいるときはいつも楽しそうだし……
そう考えるとかな恵ちゃんが一番劣勢なのだろうか。ぶっちゃけこういうのは良くわからない。
「よし、文人くん。我々はモテない者同士、「ラブコメをぶっ壊す会」でも作って国政進出でも目指そうか?」
「いや、将棋を教えてください」
彼女、欲しい……




