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第三百二十六話 アマ六段

「それじゃあ、今日の部活を始めましょう。今日は去年の全国大会の準決勝の棋譜を並べたいと思うけどいいかな?」

 部長は、合宿の件をひとまず置いておき、部活を開始する。

 去年の準決勝。ということはきっとあの試合だ。


 山田さんが昨年全国で敗れた試合。

 事実上の決勝戦とも呼ばれたその試合に勝って、相手は次の決勝も快勝し、全国を制覇した。


 豊田政宗。

 高校二年生。俺たちと同学年。

 現在、高校アマチュア将棋界の頂点に君臨している男だ。


 いや、高校将棋界だけではない。大人を含めたアマチュア将棋界の頂点に限りなく近いおとこ。

 まさに将棋界のレジェンドだ。


 アマ名人戦準優勝2回・アマ王竜戦準優勝1回・アマ聖棋戦ベスト4などの実績を上げている。すでにアマチュア段位は、実質的な最高位であるアマ六段にまで上り詰めている。


 大会で彼が負けた相手は、すでにプロ編入試験を受けてプロ入りしているため、実質的なアマ最強は彼だと目されている。


 去年の全国大会での結果によって、出場権を得たプロの大会でも彼は勝ち進み、当時のタイトルホルダーに敗れたもののプロ大会の予選を突破する快挙をなしとげた。


 今年も同じように勝ち進むと彼もプロ編入試験の受験資格を獲得する。プロの予備門である奨励会非経験者としては、半世紀以上前にしか達成できていない偉業に王手をかけている。


 また、彼は大会以外一切対人戦をしないことで有名だ。最強クラスの将棋ソフトとの対局だけで強くなった。

「ひとと対局すると悪い癖がつく」

 彼はとあるインタビューでそう発言して、周囲を圧倒した。


 彼に公式戦で敗れたひとたちは彼の将棋をこう称した。

「人ではないなにか」と……


 豊田さんは、最新の定跡に精通している。

 まさに、精密機械のように針の穴を通すような攻め将棋。


 棋譜は、山田さんのツノ銀中飛車対豊田さんの銀冠穴熊の対局となっていた。


 ツノ銀中飛車は、昭和から指されている古き良き戦法。

 それに対して豊田さんは、ソフトによって完成した最新の戦法で勝負をかけた。


 中盤まで山田さんがうまく抑えていたように見えたが、豊田さんがほんの少しの穴を見つけた無理気味な攻めが成立したのだ。穴は少しずつ拡大して、遂に山田さんの陣地は崩壊した。


 つながらないように見えた攻めは、ギリギリのところで繋がり山田さんに致命傷を与えた。彼はまるで新時代の到来を宣言した王のように、高らかに勝利を遂げたのだ。


 古き良き将棋を愛する山田さんは力なく投了する。

 もはや、大駒一枚くらいの実力差があるようにすら見えるほどの快勝だ。みんなが静まり返る棋譜だった。


「やばすぎだろう」

 文人はみんなの感想を代弁する。


「だって、あの山田さんが一手差以上差があるように見えるぞ。どうやったらあの中盤の攻めをつなげられるんだよ。あんな細い細い攻めを……」

「そうですね。それに最後の詰みも完璧に読んでましたよ。普通なら即詰みを狙わないで、安全勝ちを狙っていいくらいの大差なのに」

 葵ちゃんも声が震えている。


「彼には見えているのよ。なにもかも。彼にとってはわずかなすき間は、決してわずかじゃないし。長い詰みを見逃すことはほとんどない。彼に唯一公式戦で土をつけた木島正王龍はこう言ったらしいわよ。彼の才能は”神に届き得る”って」


「タイトルホルダーからの最大限の称賛じゃないですか……それって」

 みんなが重い雰囲気に囚われる。

 同じ世代でここまでの才能の差を見せつけられているのだから当たり前だ。


 高校最強クラスの山田さんの序盤を圧倒し、葵ちゃんを上回る終盤力を要する化け物。

 もし俺たちが彼と相対する場合はどうすればいいのか。


 俺たちは研究を重ねた。


――――――――――――――――――――――

人物紹介

豊田政宗……

高校二年生。アマ六段。

アマチュア最強とも呼ばれている。

中学から将棋を始めた晩学だが、将棋ソフトの指しまわしをトレースすることで急激に成長する。

高校一年ながら、高校生全国将棋大会を制して、夏冬連覇。

アマチュア全国大会でも、同年にプロ編入試験に合格した元奨励会三段のアマ名人しか止めることができなかった。

しかし、この一年でさらに成長し、実力は間違いなくアマの頂点。もはや、トッププロしか勝てないのではないかと噂される。

通称、二代目”プロ殺し”。

得意戦法は、居飛車全般で、雁木・角換わり・銀冠穴熊など。

序盤からリードを保ち、終盤の切り合いを好む棋風。

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