第三百二十二話 第二次女の戦い
私は桂太くんと別れた後、彼女に連絡を取る。
そして、一言簡単にメッセージを送付した。
「今日の22時に、将棋倶楽部48の第42対局室に来て」
ネット将棋の対局室番号を教えて、私はスマホをスリープさせる。
少しは休まないといけない。親の運転してくれている車で、私は短い仮眠を取る。
私たちの本当の決戦に備えて……
※
lance>ありがとう。疲れているのに来てくれて
私はチャット文でかな恵ちゃんと話す。「lance」が私が使っているアカウント名だ。由来は香車の英語名から。本当に単純……
kana kana>どうしたんですか?部長?こんな夜中に……
kana kanaか……彼女も本当に単純だ。かな恵ちゃんだから名前由来の適当な名前。
lance>実は、あなたに言いたいことがあってね
kana kana>なんとなく察しました
lance>でしょうね。とりあえず、将棋しながらチャットしない?
kana kana>いいですよ。準決勝で指したばかりなのに、いいんですか?
lance>将棋でもしながらじゃないと、たぶん話せない。
kana kana>お互いにチキンですね。わたしたち……
lance>私はあなたほどじゃないわ……
そして、私たちは将棋を始めた。
かな恵ちゃんは、この前の対局のように、3手目から角交換をした。
私の四間飛車を封印する作戦だ。
「筋違い角」
かな恵ちゃんの裏芸であり、対私の秘密兵器の一つ。
準決勝では、「ポンポン桂」を採用したから使わなかったけど、これのほうが私は嫌だった。
だって、これを使われたら、秘密兵器の「矢倉」をかな恵ちゃんに使わなくちゃいけなかったから……
だから本当に運が良かった。
かな恵ちゃんもそれが悔しくて、今回は「筋違い角」を使ったんだろう。
本当に負けず嫌い。
でも、私も……
あなたと同じ餓えたオオカミ。
そんなに簡単には負けられないわよ。
やられたらやり返す。
それが私たち将棋指し。
私はライバルに対抗して、同じ戦法を採用した。
持ち駒の角をモニター上の盤面に叩きつける。
これが私の気持ち。
かな恵ちゃん、あなたに負けるわけにはいかないの。
だから、私は逃げない。
この相筋違い角の戦いのように、力と力、気持ちと気持ちの戦いであなたに勝つ。
そして、私はチャット文を書いていた。
「さっき、あなたのお兄さんに告白したわ……」
これが私の宣戦布告だった……
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用語解説
相筋違い角……
お互いに角を筋違いの場所に打ちこむ奇襲戦法。
定跡書もほとんどなく、お互いに力勝負になりやすい。
体感的に最も将棋の戦法の中でカオスな戦い方のひとつ。
作者も大好きな力勝負。




