第三十二話 ランチ
「やった。文人が勝った……」
これで文人の準決勝進出が決まり、ベスト4が全員出そろったことになう。
おれは準決勝で羽田さんとぶつかり、文人はかな恵さんと戦う。ベスト4のうち、3人をおれたちの高校が占めるという結果になった。
ちなみに、初心者の部でも、源さんは順調に勝ちあがり、ベスト4に入っていた。
「これにて、午前の部は終了となります。準決勝第一試合は13時半より開始です」
アナウンスが鳴り響いていた。
※
「じゃあ、ぼくは昼食でも食べてくるよ」
先生は、そう言ってどこかにいってしまう。
おれは、文人と源さんと合流した。
「昼、どうしようか?」
おれはふたりにそう聞いた。
「あ、あの、よかったら、一緒に食べませんか? お昼を作ってきたので……」
「「えっ」」
「ご迷惑じゃなければ……。簡単なサンドイッチで恐縮なんですが……」
「いやいや」
「いやいや」
おれたち男どもは歓喜の大合唱である。かわいい後輩の手料理弁当。いままでの部活では考えられなかった話だ。だって、部長は料理下手だし。カレーが青くなるとか、マンガの世界だけにしてほしい。過去の忌々しい思い出を思い出す。カレーの青い悪魔事件だ。
「じゃあ、食べてください」
そう言って、ランチバックを開けると、たくさんのサンドイッチが並んでいた。たまご、ハムチーズ、ツナ、ポテト……。レタスやトマトも入っていて、色鮮やかなお弁当箱だった。
「スープも作ってきたので、よかったらどうぞ」
そう言って、水筒から紙コップにスープを注いでくれる。なんというできた後輩だ。
「すごく美味しいよ、なっ文人」
「ああ、最高だ」
「よかった。実は、かな恵ちゃんも誘ったんですが、断られちゃって」
「あー、次に文人と当たるから、気まずいんだろうな」
「そうですよねー」
さすがに、次の対戦相手と談笑しながらお昼はなかなかできないのだろう。
「スープもサンドイッチも最高に美味しいよ。源さんは、料理上手でかわいいね」
「えっ、えっ」
そう言って、源さんは顔を真っ赤にしていた。かわいい反応だった。
※
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、ふたりとも、がんばってくれ」
「うん」
「ありがとうございます」
そう言って、二人は力強く笑った。
そして、源さんはおれの耳元に近づいてささやくのだ。
「桂太先輩? あの、もし決勝までいけたら、ひとつだけお願い聞いてくれますか?」
「ああ、もちろんだよ。サンドイッチのお礼になんでも聞いてあげる」
「わあ、うれしい。約束ですよ」
そう言って、小指を差し出した。
「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます」
そう言って笑いながら、ふたりの指を動かす。ああ、至高。
「じゃあ、おれもいきますか」
そう言って、席へと移動した。すでに、羽田さんは座って本を読みながら待っていた。妖艶な雰囲気をもつ男子高生。ふわりとした印象なんけど、闇があるというか……。
おれは、目を合わせて会釈する。あいてもコクリとうなづいた。
運命の準決勝がはじまった。




