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第三百一話 キック

 居飛車急戦vs四間飛車の定跡は、心理戦だ。

 お互いに相手の陣形を見て、苦手な作戦を採用しようと、いろんな工夫を凝らしていく。

 序盤のわずかな有利でも、それが終盤に大きく影響してくることが多いためだ。


 だから、お互いに相手の陣形を見て作戦を選んでいく必要がある。

 私は、ポンポン桂を採用するために、部長の陣形を誘導していく。部長は、私の作戦が急戦だと気がついて陣地を作って、迎撃態勢を作っていく。やはり、専門家だ。スキなんてなく、着実な陣形作りを見せていく。部長は幼少期からこの戦法の使い手だった。だから、対局数は数万局以上。何万回も作ってきたこだわりの陣形である。


 しかし、私の作戦がポンポン桂とは思っていないはずだ。

 これはマイナー戦法だ。奇襲に分類される将棋。古典定跡であり、今では絶滅危惧種のはずだ。部長も遭遇していることはあっても、確たる対策を持っていない可能性が高かった。逆に、私は、やや不利な形になるけど、自分の研究した将棋になるので、知識で部長を上回れる。


 知識量の差で、部長を圧倒し、得意の終盤が来る前に、大差をつける。いくら部長でも、序中盤でなすすべもないくらいの大差がついたら、逆転は不可能になる。だから、私はひたすらリードを作り上げていかなくてはいけないのだ。


 そうしなければ、あの巨星を堕とすことはできない。

 ついに、私の狙った陣形は完成した。このチャンスを見逃すわけにはいかない。

 私は、桂馬をポンと前に跳ねさせた。


挿絵(By みてみん)


 桂馬のただ捨てである。桂馬をポンと動かして、捨てるから「ポンポン桂」。将棋に良くある安易なネーミングセンスだ。前述の通り、古典定跡に分類されて、由緒正しい戦法なのもおもしろい。将棋界は本当にいい加減な世界かもしれない。よい意味でも、悪い意味でも……


 この戦法は、別名「富沢キック」。プロ棋士の富沢さんが好んで使っていたことから、つけられたあだ名だ。また、安易なネーミングセンスだが、このかわいらしい名前に反して、この戦法が持つ火力は、数ある戦法の中でもトップクラス。これ以上のものを見つけることが難しいほどだ。


 歩いていたら、いきなり、顔面をキックされた。

 そう、部長もきっとこんな気持ちだろう。


 攻め100パーセントの陣形が完成した。

 あとは、緩まずに部長の陣形を蹂躙する。それだけだ。


 私は、一気に攻撃のギアを最高値まで引き上げた。

 もう戻ることは許されない。

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