第三百話 ポンポン桂
「「よろしくお願いします」」
私たちはいつものようにあいさつをして、将棋を始めた。
私が後手で、部長が先手。
部長がいつものように角道を閉じた。この流れはいつものように四間飛車を採用する流れだと思う。やはり、この大舞台では自分が一番慣れている戦法で勝負するのだろう。むしろ、部長が、四間飛車以外を採用したことを見たことがない。
私が筋違い角を採用したあの将棋以外は……
そもそも、筋違い角は、相手に振り飛車を採用させないようにする作戦なので、いくら部長でも筋違い角を相手に四間飛車を使うことはできなかったのだ。だが、今回は私が後手だ。だから、角交換をしようにも、相手に角の道を閉じられてしまったら、筋違い角は採用できない。部長もそれを考慮しての一手だったのだろう。
対四間飛車相手の奇襲は、あまり種類が多くない。
私のレパートリーの中には、「居飛車穴熊音無の構え」と「ポンポン桂」・「ゴーゴー左美濃」くらい。あとは、オーソドックスな対策を採用するくらいしか……
だが、オーソドックスな対策では、部長に有利に立つことはできない。だって、向こうは専門家だから。にわかじこみの対策では、四間飛車一筋の部長には通用しない。
そして、守りに回りたくもない。実力が上の部長に対して守りに入ってしまったら、そのまま押し切られてしまう。なら、一気に攻撃して勝ち切るしかない。
私は、レパートリーの中から「ポンポン桂」を選び採用しようと陣形を整えた。
ポンポン桂は、桂馬を犠牲にして、敵陣に飛車を成りこんで、主導権を握っていく作戦だ。
肉を切らせて骨を断つような激しい将棋になりやすい。
私にピッタリな戦法だ。一気に敵陣を吹き飛ばして、勝つしかないのだから。
逆に部長の持ち味を生かしやすい戦法でもある。
受けに回って、私の攻撃をひたすらいなしながら、カウンターを狙う。
お互いに得意な状況になって、良さを出しながらの勝負。
これが兄さんへの挑戦権を争う対局にふさわしいものだと思う。
ついに私たちは、真剣勝負で刃を交わす時が来たのだ。
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ミニコラム
奇襲戦法について
かな恵が得意な奇襲戦法はたくさんあります。ただ、基本的に将棋の奇襲戦法は、守りが薄い超攻撃戦法なので、かな恵の将棋もかなり攻撃的だと設定しています。
ちょっと、技術的な話になってしまうと、守りが薄いということは、攻められたときにうまくまもらなくてはすぐに負けてしまうということです。つまり、かな恵の将棋は攻撃的ながらも、ギリギリのところの守りの技術もかなりあるバランス型なんじゃないかなと個人的には感じています。
将棋って、かなり二面性があるので、棋風の設定って難しいですね。




