第三話 新しい家族
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「そっか……。とりあえず、おめでとう」
おれは、気持ちを落ち着けて父さんにそう言った。
まだ、ドッキリという可能性もある。あわてず、さわがず、冷静に……。頭の中で詰将棋を解きはじめる、よし、大丈夫だ。
「ありがとう。でも桂太は大丈夫か? 嫌じゃないか?」
「そんなわけないだろう。ちょっとびっくりしただけだよ。家族が増えるのは、いいことだしさ。それで、顔合わせってどこでやるの?」
百点満点の解答だろう。残念だったな、父さん。
「ならよかった。いつも行ってるちょっと高い中華屋さんでやるつもり。5時には出発するから、準備をしておいてくれ」
「わかった」
あれ、もしかしてドッキリじゃないのか。父さんが冷静すぎる。いつもならここで答え合わせのはずだけど……。
もしかして、あれ本気?
サイコン、ムスメ、トシシタ……。この男所帯にそんな存在が?!
あの冴えない父さん選手権常連の父さんが?
どうした?
おれと父さんのふたりぐらしはどうやら終わりをつげるらしい。なんだか、ぴんとこない話だ。もう何年もふたりでいるのが当たり前だったし……。
※
「ちょっと緊張するな」
「大丈夫だよ。ふたりともすごくいい人たちだからさ」
父さんはそんな風にノー天気に言っている。まったく、人の気も知らないで。
おれたちは中華屋さんの前で立っている。もうすぐ、ふたりも来るそうだ。
「おまたせしました。英雄さん、桂太さん」
父さんと同い年くらいの女性が駆け寄ってきた。なんとなく気品があるようなたたずまいだ。このひとが新しい母さんか……。あの父さんが、こんな美人の女性を……。騙されてないよね。
「待っていたよ。尚子さん。こちらは、息子の桂太。なかなかイケメンだろう?」
父さんがまたバカなことを言っている。おれは父さんの背中をこづいた。
「本当ね。私は、知多尚子。これから仲良くしてね、桂太さん」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
尚子さんはとても朗らかな笑顔だ。このひとなら仲良くできそうだ。おれは、一安心する。
「それで、これが私の娘、かな恵です」
尚子さんの背中に隠れていた、ひとりの女の子が顔をだす。ピンクのワンピースに身を包み、ロングヘアを後ろでしばったその子は、顔を真っ赤にしていた。そして、間違いなく美少女だった。
「かな恵です。これからよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
※
「ど、どうぞ」
「あ、ありがとう」
かな恵さんが、おれに料理を取り分けてくれる。まだ、ふたりともぎこちなかった。
「おうおう、ふたりとも初々しいな」
「本当ね」
大人ふたりは、お酒を片手に棒棒鶏を食べている。
「「あたりまえだろ(でしょ)」」
声がはもってしまった。余計に気恥ずかしい。お互いに一人っ子だったから、兄妹という関係は手探り状態だ。さらに、今日は初顔合わせ。
「まあ、仲良しだこと」
「本当だね」
おれたちふたりは、恥ずかしくて下を向いてしまった。
「ふたりは、どうやって知り合ったの?」
おれは定番の質問をしておいた。さっきの仕返しではない。断じてない。
「まるで芸能記者だな。桂太。仕事の取引先だよ」
父さんは営業マンだ。たしかに、いろんな付き合いがあるだろう。
どうやら、尚子さんは公務員らしい。バリバリのキャリアウーマンということか。
かな恵さんは、今年高校入学で、動揺させないように受験が終わるまで、再婚を内緒にしていたそうだ。だから、おれと同じで真実をさっき知ったようだ。
「おれには、もっと早く伝えられたんじゃないのかよ」
父さんに恨み節をぶつける。
「サプライズしたほうが、おもしろいだろう?」
だとさ……。
「それで、かな恵さんはどこの高校に通うの?」
「ああ、まだ言ってなかったわね、桂太さんと同じ高校よ」
「えっ」
「はは、優秀だろう? 自慢の娘だよ」
父さんは、まだ父親初日なのに親ばかっぷりを発揮していた。かな恵さんは、小さく縮こまっている。
「だから、ふたりとも仲良くな」
「はい」
「じゃあ、また明日だね」
父さんとふたりを見送る。
「桂太さん、ありがとうね。お休みの日なのに、引っ越しを手伝ってもらうなんて……」
「いいですよ、おれだって美人母娘にいいところ見せたいですし」
そんな冗談をいえるくらいに、おれたちは打ち解けていた。
「まあ、お上手ね」
別れ際、父さんと尚子さんが雑談していると、かな恵さんがおれに近づいてきた。
おれの洋服をつまみ、顔を近づける。
そして、耳元で彼女はおれにしかわからない小声でこう言ってきたのだ。
「これから、仲良く、してくださいね」
その口調はとてもやわらかいものだった。彼女のこころからの笑顔をここで初めて見た。
こんな美少女の義妹ができたおれは勝ち組。そう確信した。
こうしておれたちの関係ははじまった……
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人物紹介
佐藤(知多)尚子……
桂太の継母。45歳。地方公務員。温厚で周囲からも信頼される性格。
前夫は、病気で死別。
それ以降は、シングルマザーでかな恵を育てていた。
佐藤(知多)かな恵……
桂太の義妹。15歳、高校一年生。黒髪ロングで清楚なイメージをもたれる優等生で、クラスの人気者だが……。
趣味は、音楽とゲーム全般。