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第二百九十話 願い

 俺は、一気に攻勢に出た。

 将棋におけるハイリスクハイリターン戦法。王と飛車の接近だ。

 これは、本当に最後の手段である。

 瞬間的に、攻撃力と守備力が一気に上がるが、ドーピングによる強化のようなものでしばらくすると大きな反動が来る。つまり、俺は反動が来る前に、佐藤君の陣地を粉砕しなくてはいけなくなる。


 すべてをかなぐり捨てでも今回は勝ちたい。どんな大舞台での勝負よりも俺は興奮していた。アドレナリンは一気に分泌されて、候補手がいくつも頭に浮かんでくる。米山よりも、あの高校将棋界のトップよりも、こいつには勝ちたいという気持ちがわいてくる。たぶん、俺は佐藤君の自由な将棋が好きなんだ。どんなに不利な状況でも自分をさらけ出せる自由な棋風とそれを支える受けの将棋と確かな読み。


 経験値と深い読み。それが融合した魅力が今までの棋譜に現れていた。

 彼との将棋は、対戦相手にも良い影響を与えてくれる。お互いの読みがどんどん深くなる気がする。

 これが彼の才能なのだろう。米山が去年の大会で復活し、源さんが急成長した。そして、妹さんや丸内くんが今回の個人戦・団体戦で大活躍しているのは彼が周囲に良い影響をいるせいだ。米山が彼に執心しているのもよくわかる。この特別な才能は、とても魅力的だ。絶対に近くに置いておきたいと思う。

 俺はもっと強くなりたい。全国ではまだまだ優勝する実力ではないし、大学将棋界には多くの強豪が待ち構えている。

 だから、ここでは本気で殴り合わなくちゃいけないんだ。そうしないと、俺は一生後悔する。


 この対局が、もしかすると自分の人生を変えてくれるかもしれない。

 佐藤君に負けたひとたちは、みんな悔しそうにしながらも、どこか満足気だった。

 みんな本能的に、彼の将棋に魅せられているのだろう。

 だから、この力戦でお互いの将棋をさらけ出す。この終盤はお互いに見たことがない形になる。

 つまりは、才能と才能のぶつかり合いだ。

 俺は自分のすべてをさらけだす。彼もすべてをさらけだす。そんな終盤に俺たちは突入した。

 そうしなければいけないし、そうしなければ後悔だけが残る。


 すべての思いを乗せて、盤上にすべてを置いてくる。

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