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第二百八十七話 中盤

 俺は居玉のまま、一気に銀を前に進めて攻撃態勢をくみ上げた。

 

 しかし、居玉のままの速攻は、無理がある。

 これはあくまで、ブラフ。

 心理戦で、あくまで棒銀などの選択肢を見せることに意味がある。

 相手も棒銀の火力はわかっているので、対策用の陣形を強制させるのだ。相手ももちろん分かっているが、隙を見せたら、棒銀で一気に潰すことになるので、相手も無理やり対策陣形に組まなくてはいけなくなるのだ。


 ただ、この心理戦をやったとしても、相手が有利だ。

 あくまで、わずかばかりのポイントを取り返せるだけの心理的な有利を獲得できるだけ。

 ただ、相手はかなりの手損をしている。

 なら、その手損を有効活用すればいいのではないか。

 俺はひとつの可能性を発見した。


 当初は、考えていなかった作戦だ。しかし、このまま無理に攻め合う展開では、俺の攻撃は簡単に中飛車に止められてしまう。


 だったら……


 俺は、対振り飛車戦では、普通は考えられない陣形を作りだすことにした。

 横からの攻撃に弱くて、縦からの攻撃に強い。本来なら横からの攻め合いになる対抗では、不利になりやすい俺の得意囲いだ。


 そう、ここに無理やり()()を作り出す。

 そして……


 部長との練習将棋を思いだせ。ヒントはそこに転がっているはずだ。

 俺は、必死に自分の練習を思いだしていた。

 たぶん、今までの練習は今日この日のためにやっていたんだと思う。


 すべては今日、この人に勝つためだったんだと思う。

 俺は、左の銀を前に動かした。山田さんは、それを見て苦笑したのだった。

 そう、これは矢倉を作ることを明確に宣言した。すべてはこの戦法で終わらせてやる。


 俺は、ここでこの人を倒して、次のステージに進むのだ。

 県の頂点という最高の頂に向かって、俺は前進する。


―――――――――――――――――

ミニコラム

矢倉の受難


桂太の得意戦法「矢倉」ですが、実はいま逆風の時代です。

コンピュータソフトによって、従来の主要定跡に穴が発見されて、プロ界では激減しました。

それに取って代わって、「雁木」という古い戦法が見直されて大流行するなど将棋も変化の時代を迎えています。

なので、第一話から桂太の得意戦法としておきながら、今作に登場が遅れたのもそれが影響しています。

しかし、戦前の古い将棋の定跡が見直されて、再び復調傾向となりつつあります。

最新鋭のAIによって、古い将棋が脚光を浴びるというのは本当におもしろいですよね。

ソフトなどない時代の古き良き戦法が、実は将棋の王道だったなんていうことがあるのかもしれません。

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