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第二百八十五話 変化

 私たちは、小学校前半の時は、山田くんが圧倒的に強かった。

 私との通算成績では、たぶん、彼が8割くらい勝っていたはずだ。


 そのころの彼の将棋の本質は受け将棋だった。

 彼との対局では、相振り飛車になる時が多かった。


 私がひたすらに攻めまくり、彼が受けまくる。

 そして、彼は、余裕で私の攻撃を受け潰してきた。


 何度も何度もそれが続いて、私は負け続けた。

 

 悩みに悩んだ末、私がたどり着いたのは、彼の将棋をまねることだった。

 自分からは攻めずに、相手の攻撃を誘って受け潰す。

 受け潰さなくても、相手が攻めあぐねたら、一撃のカウンターで相手を沈めていく。


 この将棋の棋風が私にはとても合っていた。

 大会でも好成績を残すことができ始めた。決勝戦では、何度も山田くんを倒すこともできてきたのだ。

 山田くんとの受けまくりの子供大会の決勝戦は、泥沼になったものの、最後はいつも私が勝てた。

 泥沼のような未知の将棋では、私が彼に負けることは少なかった。


 そして、今度は彼の将棋が変化したのだ。

 泥沼に指せないように、序盤から研究された舗装された道を進むようになった。

 私は、その舗装された道をなんとか外そうとして、彼はそれを守りきろうとした。


 私の受けを倒すために、彼の攻撃力はどんどん増していった。

 そして、彼の攻撃力は私の受けを貫き通すことも可能なほど、洗練されたものとなった。


 中学になると、私たちの棋風は逆転して固定された。

 最強の矛と盾の関係。そう揶揄されるほど……


 でも、私たちの中には違和感があったのかもしれない。

 この勝つために進化した棋風は、本当に自分のものなのだろうかということに……

 大事なものをどこかに置き忘れてしまったのではないか。

 そんな疑問がなかったと言うとウソになる。


 だから、私は桂太くんの将棋に憧れるんだ。

 あの自由で、盤上を縦横無尽に楽しむ彼の将棋に……


 山田くんも同じだと思う。

 彼の自由な将棋はみんなを魅了する。

 彼も私と同じだ。


 私は、やっぱり彼が好きだ。

 だから、決勝戦で彼と戦いたい。


「がんばって、桂太くん。あなたが、ナンバーワンよ」

 私は、マンガのセリフをもじって応援した。


―――――――――――――――――――――――――――

ミニコラム

受け・攻め


最初は受け将棋だったけど、ライバルに勝つために攻め将棋になった。このエピソードには元ネタがあります。

大山康晴・升田幸三、このふたりのエピソードです。

このふたりの昭和の大名人は、同門で修行期からライバルでしたが、お互いの将棋に対応していくために、棋風が逆転しました。そして、ふたりは一時代を作り上げたのでした。

なかなか、素敵でおもしろいエピソードですよね。

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