表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

282/531

第二百八十二話 中飛車?

 俺は、歩を交換した後に、いつものように駒組を進めていく。

 通常ならば、棒銀か腰掛け銀にするのが、相がかりの定跡だが、山田さんは笑いながら、攻撃の姿勢をみせなかった。


 そして、なぜか、5筋の歩をいきなり前に進めたのだ。

 こんな指し方は、俺は知らなかった。

 山田さんは、やはり冷たい微笑を浮かべている。


 間違えたわけでもなく、しっかりと考えを持って指したということだ。

 つまり、この指しかたにはなにか意味がある。


 5筋の位は、天王山。

 かつては、こういわれていた。

 盤の中央を制圧してしまうと、相手の角などの駒の動きを制限することができてしまうこと。最終盤で相手玉の逃走経路を遮断しやすいこと。持久戦において、自分から仕掛けの権利を持ちやすいこと。いろんな条件が重なって、この場所は最重要拠点だと考えられていた。


 しかし、現代将棋はスピード勝負になりやすく、なかなか悠長にこの拠点を確保して、守り抜くということはなくなっていった。


 そう、現代将棋では……


 だが、山田さんの将棋は異質だ。

 彼が使う定跡は、超古典。さらに、ツノ銀中飛車など、中央に厚い将棋を得意としている。

 だから、あの天王山をむざむざ渡してしまうのは、とても怖い。

 俺も、そうはいくかと真中の歩をひとつ動かした。これで拠点確保は、かなり難しくなったはずだ。


 そう、簡単に相手の土俵に上がるわけにはいかない。

 ここの攻防が焦点になると持久戦になりやすいが、それはむしろ好都合だ。

 俺の受け将棋は、持久戦において価値を見い出しやすい。味方陣地に厚みを作って、いつの間にか勝ってしまうのは俺の得意技だ。

 さあ、どうする。


 絶対王者は、その時、にやりと笑った。

「すべて、計画通りだよ。佐藤くん? キミは僕の術中にはまったんだ」


挿絵(By みてみん)


 女性のようにきれいな、山田さんの指は、美しい所作で飛車に手をかけてそれを横移動させた。

「中飛車……、なのか? こんな定跡は見たことがない」

「だろうね。僕のオリジナル、さ」


------------------------------

ミニコラム

相がかり中飛車?

実は、今回の定跡には元ネタがあります。

戦前の一時期に流行していた相がかりの5筋位取り定跡です。

木村義雄名人など、当時の第一人者たちが得意していた戦法で、並べると面白いです。

そして、力戦形になった後に、今回のように中飛車にすることもあったので、それを私なりにアレンジしたものが山田さんが使っている戦い方です。続きの定跡は、次回のお楽しみということで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ