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第二百八十話 古典

 俺は、先手を獲得した。

 飛車先の歩を伸ばす。俺が採用するのは、居飛車だ。

 山田さんがどの戦法を使うのか、それが問題だ。


 山田さんは、古風な定跡を使う。

 古き良き昭和の時代の定跡だ。正直、俺はその時代の定跡に詳しくない。いや、詳しい人はかなり少ないだろう。古い定跡が使われなくなったことには、たいてい理由がある。攻撃を繋げるのが難しかったり、一方的に攻められてしまうことだったり、明確な対策が誕生してしまったり……


 だが、初見でその古い定跡の矛盾点を見つけるのは至難の業だ。当時のトッププロたちが必死に研究したから誕生したのがその定跡だ。普通の人間の棋力では、初見でそれをみつけることはまず、無理だろう。


 だからこそ、山田さんは強い。すべての対局で自分のホームで戦えるのだから。逆に、対局者はアウェーの洗礼を受けることになる。


 さらに、やっかいなことは、山田さんが将棋界では珍しいオールラウンダーであること……

 基本的には、振り飛車を使うことが多いが、彼の居飛車も一級品だ。

 相手によって、居飛車・振り飛車を使い分けて、自分への対策をずらすことが可能なことは、本当に厄介だった。


 つまり、対策したくても、対策できないのだ。こちらが対策をしていそうであれば、向こうは変化球で対抗してくる。変化球を狙い撃とうにも、その球種は無数にあり、相手を翻弄するのだ。


 この棋風で、彼は県に敵なしの状況を作りだした。

 唯一の天敵が、米山部長だ。


 彼女は、オールラウンダーの対極にいる存在。

 スペシャリストだ。


 相手によって戦法を変える必要がない。

 そして、自分が相手に定跡の知識で負けるわけもないのだ。

 だからこそ、その定跡で有利に立てる。


 しかし、半端なスペシャリストの知識では、山田さんには勝てない。スペシャリストのスペシャリストである必要があるのだ。


 俺は、まだその域に達していない。


 だから、選ぶべき選択肢はただひとつ……

 力と力のぶつかり合いだ。


 定跡など関係ない力戦形に持ち込んで、実力で相手を粉砕するのだ。正面突破。俺は、県最強に無謀な突撃を試みた。


――――――――――――――――――――――

コラム

スペシャリストとオールラウンダー

 将棋は、2~3種類の戦法を深く掘り下げるかまんべんなく戦法を勉強するかで学習法が変わります。

 基本的に、上達が早いのはスペシャリストですね。戦績がそのまま経験値となるので。

 逆に、オールラウンダーは、成長こそ遅いもののいくつもの知識を組み合わせて局面を見れたり、相手の対策を裏をかいたりできるなど幅が広くなります。

 全体的にスペシャリストが多くて、オールラウンダーが少数派ですが、おもしろいことにプロの大名人はほとんどがオールラウンダーです。

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