第二十七話 一回戦
今日の大会会場は市営の体育館を借りておこなわれる。
初心者の部、小学生以下の部、中学生の部、高校生の部の4つに分かれて、それぞれ8~32人に分かれて戦っているので迫力ある対局風景だ。
しかし、今回の優勝賞品はとても豪華だ。いつもは、将棋本1冊プレゼントとか図書カード2000円分なのに……。そのせいなのか、みんないつも以上に殺気立っている。
まだ、一回戦なのに、非常に粘る。負けが確定しようとも、粘って粘って粘りまくっている。貪欲な対局が多かった。
おれの出番は、2回戦からなので、観客席で荷物番をしていた。
いま、文人と源さんが対局に臨んでいる。
文人の相手は、同じ学年の男子生徒。文人は得意の角換わり戦法に持ちこみ、早繰り銀を採用している。
相手は、その受け方を知らないようで、一方的な戦いになっている。これなら、安心だ。
源さんは、緊張のせいか手が震えて、何度も駒を落としたりしていたが、順調に攻め続けている。反対にあいては、陣地に空いてしまった穴をふさぐのに手いっぱいとなり、自分の陣地に駒を貼りつけている。カウンターを仕掛ける余裕もないようだ。
「これで、ふたりは安心かな?」
そんな風に思っているとほぼ同時にふたりの対戦相手が投了した。
無事に一回戦突破だ。
結果報告を終えると、源さんはおれにいそいで報告に来てくれた。
「やりましたよ、桂太先輩! 教えてもらった棒銀で勝てました」
「見てたよ。すごいね、公式戦の初戦で初勝利おめでとう」
「桂太先輩のおかげです。ありがとうございます」
そういって、ジャンプしておれに飛びついてくる。おれの後輩がこんなにかわいいわけがない(反語)。これで、おれは10年戦える。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
「桂太先輩も、がんばってください」
最高の滑り出しだ。この光景を、かな恵さんが凝視していることを除いては……
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早繰り銀
序盤から角を交換する角換わり戦法の一種。角換わり4大戦法(棒銀、早繰り銀、腰掛銀、右玉)のなかでも、棒銀と並んで最も攻撃力が高い。
その反面、前のめりすぎてカウンターがきついことが多い。
相対的に、棒銀に強く、腰掛銀に弱い。
角換わりの三すくみ
右玉を除いた角換わりの3つの戦法の相関関係。
「腰掛銀は早繰り銀に強く、早繰り銀は棒銀に強く、棒銀は腰掛銀に強い」
というように、じゃんけんのような関係になっている。
ただし、棒銀と早繰り銀には、明確な対策が見つけられており、プロの間では腰掛銀が主流となっている。




