第二百六十八話 建設
角交換は成立した。
彼女はいかにも嬉しそうな顔をして私の作戦に乗っかってきたのだった。
これで私のやや不利な状況だ。しかし、ここからが私の将棋なのだ。
少しくらい不利にならなくては、本気が出せないのもある。
不利になったところからが本番なのだ。
山瀬さんは、エルモ囲いの固さを担保に、猛烈な連続攻撃を仕掛けてきた。
重い重い一撃の連続だ。彼女は深く深く考えながら、次の一手を放ってくる。彼女もやはり向こう側の人間だ。
居飛車側は、捌きを喰らわないように、上から私の陣形を押さえつけようとしてくる。
完全に押さえつけられてしまったら私の負けである。
わずかでもいいから、相手の陣形にすき間を見つけて、角を打ち付ける場所を作り出す。もしくは、飛車交換して、活路を見い出す。いくら受け将棋とは言っても、カウンターをしかけなくてはジリ貧となってしまう。
受け将棋は、鋭いカウンターを伴わなければ価値は半減する。
私は前半から、長めに考慮時間を使っていく。
そして、見つけたのだ……
11手目先にある、光を……
何度も手順を考える。
この光は見間違いではないのかと、何度も何度も確認して、確信した。
これは、本物、だと……
私の思考は速度を上げていく。
これが光なんだな。桂太くんや葵ちゃんがいつも見ている光なんだ。
私は、みんなが見ているものをみることができたのかもしれない。
それが本物なのかはわからない。
でも、それは才能がない私の見つけたお釈迦様が垂らしてくれた一本の蜘蛛の糸だった。私はそれにすがるように手を伸ばした。




