第二百六十六話 エルモ囲い
エルモ囲い。
金と銀がジグザグに組み合わさった囲いである。
このジグザグに組み合わさった特徴が、最大の強みである。駒同士が連結して、簡単に作れる囲いにも関わらず守備の安定感はピカイチだ。
急戦vs振り飛車。
アマチュア将棋において、半世紀以上にわたって主流に君臨している怪物戦法だ。
居飛車側が、防御力が低い代わりに主導権を握る。振り飛車側は、主導権を放棄する代わりに守備力を獲得する。居飛車は、ミスを許されない戦いになり、何度も振り飛車の守備力の軍門に降ってきた。その対策に考えられたのが、振り飛車の天敵「居飛車穴熊」。
居飛車穴熊が主流になるにつれて、急戦は数を減らしてきた。
やはり、守備力の低さがネックなのである。
将棋において、守備力はもっとも重要な要素だ。私が四間飛車を指し続けるのは、四間飛車が安定して高い守備力を作りださせることが理由の一つ。
しかし、コンピュータ将棋の発展によって、全ての常識は一新された。
今まで、脆弱な守備力によって、苦汁をなめていた急戦に、新しい守りかたが生まれたのだ。
最強の矛に、固い守備力をもつ盾が加わったのだ。
振り飛車vs急戦は新しい局面に突入したのだ。
そして、振り飛車は苦労している。対策しなくてはいけなくなる戦法が増えたのだから……
ここからは、今までの積み重ねと経験、そして自分のすべてをぶつけた戦いになる。
私が彼のもとにたどりつくために……
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用語解説
エルモ囲い……
数年前に誕生したばかりの守りかた。
従来の居飛車急戦時に使う船囲いと比べて、金銀の連結が良く守りが固くバランスもよい。
同名のコンピュータ将棋ソフトが多用することから、この名前になった。




