第二百六十三話 将棋指し
「すごかったですね…… 桂太先輩」
「うん、すごかった」
私は、葵ちゃんと桂太くんがみせた素晴らしい将棋の感動を共有していた。
桂太くんの将棋は完璧だった。本当に圧巻の指しまわしだった。あの橋田くんをもって、なにもさせることができていなかった。彼本人は気がついていないかもしれないけど、この大会で一番成長しているのは葵ちゃんではなくて桂太くんだった。それは間違いない。
今回の大会は、すべて矢倉で戦っている。彼の矢倉は、まさに秘密兵器ともいえる獅子奮迅の活躍で、全国大会への切符を獲得していた。
橋田くんが負けたことで、前回大会の4強のうち半数が全国への切符を逃したことになる。そして、彼らを倒したのが、私の後輩の桂太くんと葵ちゃんだ。まさに、新時代の幕開けを象徴している出来事になっていた。
「でもね、葵ちゃん。このことはおぼえておいてね」
「なんですか」
「将棋指しが、他のひとの将棋で感動しているだけじゃダメなのよ。それでは、負けを認めたことになる」
「はい」
「だから、自分を感動させた相手を逆に感動させてしまうくらいの将棋を指しましょう。そうすれば、私たちの勝ちよ」
「はい!」
私も、うかうかしていたら危ないかもしれない。
そして、次の対戦相手は、新時代の旗手のひとり山瀬さんだ。
彼女も、ふたりの活躍を見て闘志が湧き出ているだろう。
「部長、わたしたちもいきましょう」
葵ちゃんが言った。彼女は目を閉じて、一息呼吸を整えた。
「ええ、そうね」
私もうなづく。
ついに、私たちの準々決勝がはじまる。




