第二十六話 真実
「さて、トーナメント表でもみるかな」
そう言っておれたちは、トーナメント表を確認する。
市内のひとが集まる将棋イベントということで見知った顔が多い。
おれと文人は高校生の部で、源さんは初心者の部だ。
「おっ、桂太。シードじゃん。いいな」
「えっ、本当?」
自分の名前がなかなか見つからなかったので、焦っていると文人が見つけてくれた。トーナメントの左側一番上におれの名前があった……。
佐藤桂太(高2)と……。
ということは、おれは……。
「すごいですね、桂太先輩。第一シードじゃないですか!」
源さんがそう言ってはしゃいでいる。
ですよねー。やばい、プレッシャーがっ……。
「やっぱり、前回の県大会でベスト8になったのが大きいんだよな。市内の強豪は、おまえと部長以外最高ベスト16だったしさ~。よっ、優勝候補筆頭」
文人がそう言って。おれの緊張を煽ってきた。
第一シードがおれで、第二シードが知多さん、第三シードが萩生さん、第四シードが羽田さんだ。それぞれ、2回戦からの出場となっている。このなかでは、高校1年生だからか。知多さんは面識がない……と思いつつ、下の名前を読む。
「知多 かな恵(高1)」
おれの義妹の旧姓だった……。
「えっ……」
源さんが、変な声をあげた。
「おはようございます、桂太さん」
そこには黒髪清楚な美少女が立っていた。みなれたブレザーの制服に身を包んで……。今朝、一緒に朝食を食べたおれの、妹が……。
※
「かな、恵、さん……?」
どうして、ここにおれの自慢の義妹がいるんだよ。すでに、おれの頭の中は大混乱。おれの頭の中の検討は打ち切られている。
「ごめんなさい。桂太さん。だますつもりはなかったんですが……」
「えっ」
「言いにくくなっちゃって……」
「……」
「実は、わたし、将棋大好きなんです。段位ももってます……」
わーお。なんでちゃんと教えてくれなかったんだ。
「桂太さんも、将棋が好きというの知って話そうと思ったんですけど……」
「あっ」
「暗いとか思われるのが、嫌で言うタイミング逃しちゃって……」
「ごめん、たしかにそんなこと言ってたわ」
こんな趣味暗いよねとか言ってた時のおれを殴りたい。
「部長さんと、見学の時に、将棋をしたときにばれちゃって……」
「あー」
あの熱い女の戦いをしていたときか……。
「そうしたら、私がチャンスを設定してあげるから、そこでカミングアウトしたほうがいいって。それで、ここに……」
部長め。全て知ってて、狙ってたんだな。
「ちなみに、アマチュア何段なの?」
「3段です」
あっ、おれと同じ段位だ~。ということは、中学時代もかなり活躍してたんだろうな。他県に住んでたから知らなかったけど……。
「それに、今日は、部長さんと賭けをしているんです」
「賭け?」
「はい、この大会で、桂太さんが優勝できたら部長さんの勝ち。私が優勝したら、わたしの勝ち。勝者は、桂太さんになんでも言うことを聞いてもらえるっていう……」
「はぁっ!?」
当事者不在のまま、このふたりはなにを決めているのでしょうかね。
「だから、今日は負けません。全力で優勝を狙います。絶対に決勝で会いましょうね」
そう言い残して、彼女は人ごみに消えていった。




