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第二百五十七話 兄妹

「かな恵……」

「兄、さん」

 私たちは、数時間ぶりの再会を果たした。ほんの数時間ぶりだったのに、もう何年も会えていなかったように思えた。とても懐かしい顔だ。まだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だめだ。このままだと戻されてしまう。

 お父さんが求めた強さとは、真逆の楽しい将棋に戻ってしまう。


 兄さんのせいだ。

 私の将棋は兄さんに出会ってから、変わってしまった。

 将棋が苦しいものから、楽しいものへと変わってしまった。

 そして、私は弱くなった。


 だから、昨日は惨敗したのだ。みんなの優しさに甘えてしまった。

 こんな調子じゃ次の大会でもみんなに迷惑をかける。


 だから、戻らなくちゃいけない。

 今までの私に……


「かな恵、ごめん。大事な試合の前に」

「兄さんだってそうでしょう?」

「一言だけ言いたいことがあるんだ」

 ()()()()()()()()()()()()()。私は直感的にそう思った。


「なんですか」

 こんなめんどくさい女、嫌われて当然だ。

 覚悟していたことじゃない。

 なのに、私はどうしてこんなに悲しい気分になるのよ。


「見ていて欲しいんだ」

「えっ?」

「見ていて欲しいんだ、俺の将棋を…… 今日は、お前のために、かな恵のために勝つって決めているんだ」

「なに、言ってるんですか?」

「気持ちわるいこと言っているのは、自覚ある。でも、見ていて欲しいんだ。うまく言葉にできないことも、盤上なら言うことができる。だから、俺の将棋を見ていて欲しいんだ。あと、俺は誰よりも決勝でかな恵と戦いたい。プレッシャーになってしまうかもしれないけど、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「じゃあ、行ってくる。()()()()()()()


「兄さんっ」

 私は思わず兄を呼び止めてしまった。


「一つだけ聞かせて」


 廊下は、しんと静まりかえっている。


「私は兄さんのなんなんですか?」


「決まってるだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 兄さんは、そう言って戦場へと向かった。


 私はひとりになって言う。

「気持ち悪いわけないじゃないですか。私も、大好き、です」

 兄さんの姿はもう見えなかった。

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