第二百五十五話 それぞれの昼休み
「桂太、お疲れ様」
「ありがとう、文人」
控え席に帰ってきたが、やはりみんなはそろってはいなかった。
俺と文人と部長のいつもの3人だけ。
「かな恵と葵ちゃんは?」
「かな恵ちゃんは、そもそもこっちに来ていないわ。葵ちゃんは、1回は戻ってきたんだけど、別のところでお昼を食べるって言ってたわ」
「そうですか」
「やっぱり、私と食べるのはちょっと気をつかうのかもね。桂太君とは違って、次の戦いで当たるかもしれないし」
「そうですよね」
「俺も、山田さんに勝ってたらさすがに桂太と一緒にランチはできなかったな」
文人もふたりの気持ちを肯定する。
特に、かな恵は、葵ちゃんのことを気にしている。それは、昨日の夜の様子からも明らかだった。
しかし、あの驚異的な才能だ。気にするなと言うこと自体が無理でもある。
「ふたりとも、はじめての大会だから緊張してるんでしょうね」
「そんな部長は、落ち着いてますよね。やっぱり、場慣れしてるんですか?」
「そんなわけないでしょ。緊張でガチガチよ」
「そんな風には見えませんけどね」
「見せないようにしているのよ」
「やっぱり、怖いですか」
「そりゃあ、怖いに決まっているでしょ。負けたら終わりの一発勝負。山瀬さんやら葵ちゃん、もしくは、かな恵ちゃんといった若手のホープたちの挑戦を受けないと決勝までいけない。こんな怖いことはないわよ」
「意外です」
「でも、私は負けないよ。だって、決勝で戦いたい人がいるからね」
「そこは、やっぱり将棋ネタなんですね」
「ひどーい。真面目に言ってるんだけどな」
「相変わらず、イチャイチャしてますね」
文人がチャチャを入れてきた。
「してねえよ」
俺は慌てて否定する。
部長は不機嫌そうな顔になった。
「桂太君のばーか」
そう言いつつ唇を俺の耳に近づけてくる。
「絶対に決勝まで来てね。約束だよ」
部長はいつもとは違う顔をしていた。




