第二百五十二話 因縁②
雁木は、右四間飛車と相性抜群だ。
バランスよく、最高の攻撃力を得ることができる理想形だ。俺も毎回苦渋をなめさせられたトラウマを植え付けられている。しかし、その苦難の道から俺はひとつの結論を導き出していた。
それは、カウンターだ。
雁木は、バランスよく全駒が躍動する将棋だが、ひとつ欠点があった。
それは、攻撃のバランスが良すぎるせいで、攻めが終わった後にカウンターされる余地が大きいことだ。
つまり、必死に守りをつなぐことで、逆転の可能性が高まる。
これははっきり言ってしまえば、勝ちにくい将棋だ。プロなら選ばない手順だとも言える。
だけど、俺はそれを選んだ。なぜなら、それが楽しいからだ。
そして、かな恵に見せたい将棋はこういう将棋だった。
勝ちにくくてもいい。自分が楽しく、熱くなれる将棋を妹に見せたい。トラウマに引きずられて、勝利に固執し続ける彼女の目をさませるのは、たぶんこういう泥臭くてねばねばした将棋だと思う。
勝利を求めるマシーンとなるだけが将棋じゃない。
俺はそれを伝えたかった。
かな恵はこの将棋をみていないかもしれない。
だが、それでもいい。
こんな将棋を決勝までずっと続けていけば、きっと一度は目にしてくれる。
そして、一度でも俺の対局を見てくれれば、かな恵はきっとわかってくれる。
どうして、そんなことがわかるのかって?
だって、俺はかな恵の兄貴だから。
妹を喜ばせようとしない兄貴なんて、兄貴失格だから。
だから、俺は……
この険しい山道を進むのだ。
ゴールに光があることを信じて。
とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけとどけ、とどけ、とどけとどけ、とどけ、とどけとどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけとどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ、とどけ
俺は必死に粘り続けた。
※
「どうして、こんな大事な大会で、そんな勝ちにくい将棋をしているんですか…… 兄さん」
私は、大事なひとが必死に攻撃を受け止める将棋を見ながら不思議な気持ちに包まれていた。
彼が私のために戦ってくれていることがよくわかった。




