第二百四十八話 決着の行方
あの後から、60手以上進んだ。
形勢は、俺に攻撃の手番が回っていた。
先手であることを生かして、俺は積極的な指しまわしを披露する。
山田さんは冷静に対処し、攻め合う展開を作るが、やはり守備に回った時の迫力は、うちの部活のツートップには及ばなかった。
やはり、いつも圧倒的な粘り力を見ているせいか、山田さんの守備に気迫がかけて見えた。たぶん、いつもは攻める将棋だと言うこともあるのだろう。だからこそ、俺は攻め続けなくてはいけない。緩めたら、強烈なカウンターが待っている。
ここから先は細い細い攻めを繋いでいく必要がある。一手でもミスれば、すぐに攻撃は終わり逆襲を喰らって敗北だ。
もう持ち時間もなくなっていた。お互いに秒読みの神経戦。そして、この修羅場だ。
はっきり言って、どちらが勝つのかは運しだいだ。この短時間で、読み切るのはおそらくプロでも不可能なほどの難解な局面。
たぶん、この先には山田さんの詰みがあると思う。
考えられる手は、「1三角成」か「2四桂馬」のどちらかだ。
正解を導き出せるか。お互いにどちらが先に間違えるか。それは、もはや神のみぞが知る世界の話になっていた。
また、再び俺の時計が動き出した。
俺はみんなの顔を思い浮かべて、次の一手を指す。
その先に栄光があることを信じて。
俺が選んだのは、2四桂馬だった……
※
「負けました」
投了を宣言したのは、俺だった。
一手のミスによる逆転負け。ミスをしたことで動揺し、続けてミスを繰り返す。負のループだった。
「ありがとうございました。惜しかったね」
「ですよね」
「ああ、あそこで1三角成だったら、僕の負けだった」
そう言って、本来の手順を山田さんは示してくれた。
俺が逃した勝利の栄光を……
▲1三角成 △同 玉 ▲1一龍 △1二金打 ▲2四角 △2三玉 ▲3三角成 △同 金
▲同桂成 △同 玉 ▲3一龍 △3二香 ▲2四金
以上、13手詰。
「キミに勝てたの運が良かったからだね」
「いや、実力でしょう」
「ありがとう。これでたぶん、また優勝できるね。キミの分も頑張らせていただくよ」
「それはどうですかね?」
「えっ」
「あなたは、たぶん王座から引きずり降ろされますよ」
「嫌な予言だ。米山のことかな。それともあのすごい1年生女子のことかな?」
「違います。うちの最強のエースに、です」
俺はそう言って笑った。
笑った。




