第二百四十六話 頂点vs底辺②
角換わりの戦いは、王道の「相腰掛け銀」となった。
今までも何度も戦ってきているこの戦法は、何十年も戦法の中心に君臨している王道戦法だ。
桂太の得意戦法である「矢倉」が、コンピュータによって衰退したこととは裏腹に、この戦法はそれによってさらなる進化を遂げているのだ。限界まで研究が進んでいたと思われた局面で、常識外の鬼手がまったく新しい局面を作り出すのだ。
矢倉が消えた今では、居飛車戦法の玉座に君臨しているのは、この「角換わり相腰掛け銀」なのだ。
それを俺は、県最強の男と盤を挟んで対峙して、使っている。一つの夢が叶ったともいえる。だが、夢はこんなところでは終わらない。
山田さんを玉座から引きずり降ろして、新しい世界を創る。
最弱底辺の俺が、この戦法で王者を粉砕したら、皆は否が応でも考えるだろう。
「新時代の到来」、を。
今回はコンピュータの最新形ではなく、やや古い定跡となった。
それも定跡からわずかに外れている。
相腰掛け銀の難しいところは、定跡からひとつでも歩の場所が違えば、その定跡が使えなくなってしまうことが多いことだ。
山田さんは、俺にこう言っているの。
「定跡で知識勝負とか生意気言うなよ。力勝負で、決めようぜ」
彼はいつもの不気味な笑顔でそう言っていた。
俺は、駒を進める。
それは彼にこんな返事をしたことと同義だ。
「ええ、いいですよ。力勝負しましょう。そして、あなたの時代は終わります」
俺も彼にそう微笑み返した。




