第二百四十四話 葵とかな恵②
相手は、県最強クラスの怪物だったはずだ。
それにもかかわらず、葵ちゃんは、その最強クラスを粉砕していた。
まるで、赤子の手をひねるかのように、いとも簡単に……
盤面から逆算すると、甘枝さんは「居飛車穴熊」で、葵ちゃんの中飛車に対抗しようとしていたようだ。
しかし、一度も王手をかけられることなく敗れている。
その証拠に、葵ちゃんの片美濃囲いは、無傷で王を守っていた。
中飛車の天敵で、一方的に攻められる展開になりやすい状況で、だ……
「甘枝くん、負けた」
「ああ、手合い違いの状況みたいだ」
「穴熊なのに、中飛車側に一度も王手をかけることできなかったよな」
「ああ、最後に思い出王手かけることすらできなかった……」
「間違いない、怪物だ。昨日の大活躍は、単なるラッキーじゃねえよ。実力だ」
みんなが呆然とその状況を見ていた。
葵ちゃんに敗れた甘枝さんは、机に崩れこんで、起き上がることはできなかった。
その敗者を少し気にしつつも、葵ちゃんは静かに席を立った。すでに目線は、次の戦いに向かっている。
その様子を、かな恵は遠くからじっと眺めていた。
表情はとても複雑そうな顔になっている。
かな恵と葵ちゃんは、このままふたりが3回戦に勝てば、準々決勝で激突することとなる。
どちらが勝つかは……
「このままだと、準決勝で対戦するだろう米山香しか止められねえじゃねえかな?」
「ああ、優勝もありうるぞ。間違いなく、優勝候補筆頭の山田や米山に近い実力を持っている。下手したら食われるぞ、あのふたりも」
ギャラリーの声が、かな恵に突き刺さっているように、俺には思えた。




