第二百四十一話 陽動か本命か
佐藤くんは、雀刺しの陣形を作りだして、俺の端を粉砕しようとしてきた。
この動きは陽動か? 本命か?
陽動であれば、端の攻撃に備えて陣形を作りださせて、後から薄くなった中央に軸足を移して突破してくるだろうし……
本命であれば、早急に迎撃態勢を整えなくては、俺の端が食い破られて王の眼前に敵が迫ってくるパターンとなる。
普通に考えたら、これは陽動だろう。
なかなか、この戦法に雀刺しを組み合わせることはしないのだ。銀で角の射程を邪魔してしまっているから、通常の雀刺しほどの攻撃力は望めないのだ。だから、これは陽動だろうと思う。慌てて、端を守ろうとすると、飛車を動かされて薄くなった中央を突破される。
ならば、この陣形を維持して、相手の攻撃を待つ。
俺が考えるこの未知の局面への回答は、待機だ。この流れはおそらく陽動っ。
だから、動くべきではない。
俺が待機策の一手を指した瞬間、佐藤桂太は笑ったのだ。
すべてを読み切ったような笑みを浮かべて、彼は端の駒を動かした。
※
幸田さんは、この一手に悩んでいた。
おそらく、俺の雀刺しの作戦が陽動か本命かを考えていたのだろう。
その悩みすら、俺の研究手順なのだ。
この形は、相手の動きを見て、次の一手を決める作戦なのだ。
相手が中央を固めてきたら、端を……
相手が端の防御を固めたら、中央を……
様子を見ながら狙っていく作戦。
つまりどちらを選んでも、俺の作戦勝ち。
これを崩すには、お互いに切り合うのが正解だったのだ。
俺は、相手の端を一気に食い破るべく駒を進めた。




