第二百四十話 取っ組み合い
今回の更新分から、1日1話更新となります。
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矢倉の将棋の特徴は、簡単に言ってしまえば「取っ組み合い」だ。
駒と駒がぶつかり合って、どんどん戦端が拡大していき、最終的に全面戦争へと突入する。
盤の中央付近から戦争が始まって、端まで行き渡るのは、現実の全面戦争のような緊迫感がある。
だが、定跡が整備されつくした街道を行ってばかりでは、おもしろくない。
この戦法を受けたということは、間違いなく幸田さんも矢倉のスペシャリストだ。
だから、俺はこの戦法をコンピュータソフトを使って洗いなおしていた。
新しい可能性を見つけるために。
そして、たどり着いたのが、温故知新という考え方だ。
将棋の最先端が、古き良き戦法に可能性を与えるのだ。
俺が、考えてたどり着いたのはこの王道と古典の組み合わせだ。
俺は、歩・香車・飛車を一列に並べた。
定跡では、この戦法を矢倉4六銀3七桂馬と組み合わせることはない。
だからこそ、意表をつけるし、主導権を握れるという考えがあった。
これが、俺が考えた秘策「雀刺し」。
戦力を一か所に集中して、敵陣を食い破る秘策だった。
「なっ……」
幸田さんは、言葉を失っていた。これが成立するかどうかわからないという顔をしている。
当たり前だ。この戦法同士が組み合わさることなど考えられていなかったのだから。
はたして、彼は俺が作り出した未知の盤面にどこまで深く潜れるだろうか?
幸田さんの持ち時間がなくなっていく。
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用語解説
雀刺し……
昭和中期に流行した矢倉の戦い方の一種。
端に攻撃力を集中して、敵陣を一気に食い破る戦法である。
本来は、この盤面では使うことは難しいので、採用は敬遠される。
歩・香車・飛車が連なる形はロケットに例えられて。見た目も分かりやすく、攻撃力も高い。




