第二十四話 大会?
「え……。大会?」
おれたちは、驚愕の声をあげる。
「そう、市民大会よ。将棋支部がこんどの土曜日にやるらしいの。少し人数が不足しているそうなので、わたしのコネでみんなをねじ込んでおきました」
「ちなみに、部長は?」
「あっ、わたし? わたしは当日の午前中に全国模試だから参加できないの。ごめんねー」
「とりあえず、がんばってきてよ。西高の荻生さんとか三高の羽田さんとか参加するみたいだし」
萩生さんも羽田さんも高校3年生。どちらも県の新人戦で、ベスト16になった強豪だ。おれも、たまに練習将棋をする仲で、見知った顔だ。
少し戸惑ったけども、よく考えたら夏の大会前に、強豪と真剣勝負できる絶好の機会だ。嬉しくなってきた。
「ちなみに、優勝賞品は、豪華旅行券らしいから、優勝しないと承知しないわよ? その旅行券で部活の合宿するんだから……」
そんなことなら、やっぱり部長にも出てほしい。
「期待してるからね、桂太君」
責任重大だ。
部長のスピーチが終わってから、おれは彼女に近づいた。
「部長、今日の夜空いてますか?」
「あら、デートのお誘い? なら夜景がきれいなレストランがいいなー」
「そんな高いところ無理に決まってるじゃないですか」
「じゃ、じゃあ、よばい?」
「……。将棋ですよ」
「知ってた。ネット将棋で練習相手になってくださいということでしょう?」
「はい、そのとおりです。お礼はちゃんとするのでっ」
おれは、ジャンピング土下座をかまして、部長にお願いする。
「しょうがないな~。1時間だけよ。一応、わたしも受験生なんだから。それに、いまなんでもって」
「言ってません」
「たまには、わたしも、葵ちゃんみたいに桂太くんに手取り足取り教えてもらいたいな~」
「はいはい、寝言は寝てから言ってください、部長」
本当にこのひとは脳内お花畑だ。昔は、あんなにかっこよくみえたのにな~
「こんな美少女に言い寄られているのに、桂太くんってもしかして女の子嫌い?」
「好きですよ。でも、部長みたいな憧れの女性にそんなにぐいぐいこられても……」
「桂太くん、もう一回言ってみて」
「えっ、ぐいぐい来られても……」
「違う、その前」
「部長みたいなきれいで将棋も強いあこがれの女性……。あっ」
本音がダダ洩れだった。お互いに赤面しあう。
「いいわ、今日はどこまでもつきあうわ」
「あ、ありがとうございます」
「そして、ふたりでランデブー」
「しませんよ」
それでも、おれは最後の一線は踏み越えなかった。
ナイスファイト、俺!




