第二百三十一話 朝の決意
ついに、大会2日目の朝が訪れた。
おれは、覚醒した頭で、日課の詰将棋を解きはじめる。
おれは、昨日聞いた尚子さんの話を思いだしていた。
そして、決意を新たにする。
「今日は絶対に勝つ」
誰が相手でも、勝たなくてはいけない。勝って将棋の楽しさをかな恵に教えなければ、俺たちの間に大きな壁ができると思う。そんなのは嫌だ。かな恵がそれを望んでいたとしても、おれはそんなことは望まない。
例え、相手が部長だろうが、葵ちゃんだろうが、山田さんだろうが、今日だけは負けることができないのだ。
誰であろうと、立ちふさがる相手は粉砕する。
それが、俺にできる唯一のことだ。
いつのまにか、7手詰の詰将棋の本を解き終えていた。
「200問を、25分か。自己ベスト更新だな」
俺は、本を閉じて、服を着替える。ついに、決戦ははじまるのだ。
※
会場前で部長たちと合流した。
「よし、みんな寝坊もなくきたわね。今日は、ついに個人戦よ。昨日とは違って、みんなライバル。もし、お互いにぶつかったら、正々堂々潰し合いましょうね」
部長は、冗談のように言っていたが、本音だということはみんな知っている。部長は、本当に負けず嫌いなんだ。
「特に、桂太くん? 昨日、私を泣かした借りは、決勝で返すわよ」
部長は、笑っていた。決勝まで上がって、私と戦えという激励でもあり、自分は決勝に行けるという自信の裏返しでもある言葉だ。
「はい、決勝でお会いしましょう」
俺も自信満々に答えた。
「言うようになったじゃない。我が弟子よ」
「はい、師匠。もう、負ける気はありませんよ」
俺たちは笑い合う。
「それ、誰のお仕事のセカイだよ」
文人は、いつものように冷静なツッコミを入れていた。
「じゃあ、組み合わせの確認よ。文人くん・かな恵ちゃん・葵ちゃんは、1回戦から登場なので、集中しておくこと。私と桂太くんは、シードなので2回戦から登場します」
部長は説明していく。
「そして、文人くんの2回戦の相手はなんと、山田くん。県最強の男だけど、文人くんも急成長しているから、全力でぶつかりなさい」
「はい」
「そして、葵ちゃんの2回戦の相手は、甘枝くんよ。昨日、勝っている相手とは言え、相手は第3シードの強豪。向こうも全力で来るわ。気を引き締めてね」
「はい」
「そして、うまくいけば、準々決勝で、葵ちゃんとかな恵ちゃんが激突するわ。そうなったら、ふたりとも全力で戦ってね。準決勝で待っているわ」
「はい」
「はい」
「そして、桂太くん。あなたは、準々決勝で橋田さん。準決勝で文人くん。決勝で私を相手にするきもちでがんばってね」
「はい」
「よし、じゃあ出発よ」




