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第二百二十九話 父親

「話って言うのは、かな恵の父親のことなの……」

「父親って言うと、本当の父親のことですよね」

「そう、英雄さんじゃなくて、あの子の父親のこと」

「ふたりに何かあったんですか?」

「なにか、あったとは、少し違うんだけどね……」

 尚子さんもかな恵も、おれたちのことを気にしていたのか、本当の父親のことはあんまり話したがらなかった。おれも、ナイーブな問題なので、あえて聞かないようにしていたのでけど……


「かな恵って、辛そうに将棋するでしょ?」

「はい」

「それって、たぶん、あの人のせいなのよ」

「どういうことですか?」


「かな恵は、父親から将棋を教わったの」

「おれと、同じですね」

「そう、桂太君と同じ。でも、()()()()()()()()()()()()()。そして、その違いは、あなたとかな恵の将棋観を決定的に違うものにしてしまったのよ」

「……」

「かな恵の死んだ父親は、()()()()()でね」

「奨励会ですか」

 奨励会とは、プロの予備門だ。地方の将棋の天才たちが集い、潰し合いをしていく恐ろしい場所。成績が悪ければ、どんどん才能が潰れていく場所だ。年齢制限までに、プロ四段に達しなければ、強制的に退会させられてしまい、プロになることはできなくなるのだ。


 そして、お父さんが、元奨励会員だということは、おそらく……

 潰されてしまった側の人間なのだろう。


「お父さんは、どこまでいけたんですか?」

「三段だったと話していたわ」

 それは、プロまであと一歩のところで退会させられてしまったことを意味する。


「そんな悲しい顔をしないで。退会した後の、あの人はとても幸せな生活をしていたから。退会した後に大学院に進学してね、そこで私たちは出会ったの。彼は本当に優しいひとだったわ」

「そうなんですか」

「私たちは就職して、結婚して、かな恵を授かった」

「はい」

「でも、彼は、自分の娘に夢を見てしまったのよ。自分が果たせなかった将棋のプロ棋士という夢を……」

「……。だからですか。かな恵があんなに辛そうに将棋をするのは……」

「いつもは優しい人だったんだけど、将棋のことになるととても厳しいひとだったのよ。かな恵が変な手を指すと、厳しく叱ってね」

「……」

「それでも、かな恵は、頑張った。将棋大会でも、なかなかの成績を残せるようになった。でも、なかなか優勝はできなかったの」

 尚子さんは、辛そうに真実を続けた。

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