第二百二十話 フランケン
「部長はどうして桂太を練習相手に任命したんですか?」
「急にどうしたの文人くん?」
「いや、気になって」
桂太は一方的に攻められ続けている。しかし、桂太の顔は決してあきらめてはいないようだ。むしろ、自信満々な表情に変わっていく。そんな様子を見ながら、俺はうらやましくなってきた。だから、部長にちょっと意地悪をしようと質問した。
「最初は、ちょっとしたフィーリング、だよ」
部長はちょっと困ったようにそう笑った。まったく、お熱いことだ。
「ひとめぼれですか?」
「茶化すなら言わない」
その反応が一つの答えなんだけどな。俺は、あえて黙って謝罪する。
「ごめんなさい」
もう、文人くんはしかたないんだからみたいなことを言って嬉しそうな顔になっている。
もう、恋煩いとはここまでやっかいな病気なんだなと俺は少しだけにやにやする。
「最初、将棋を指していて、なにか違和感があったんだ」
「違和感ですか?」
「そう、違和感。なにか異質なものを感じたのよ。桂太くんの将棋からは……」
「その違和感の正体は見つけられました?」
「たぶんね」
部長はさきほどの恋する女の子の顔を捨てて真面目な表情になった、
「なんでしたか?」
「読みの深さが深すぎるのよ」
「?」
「それって、普通なら有利なことでしょう? でも、桂太くんは深すぎてしまう。だから、持ち時間が短いアマチュアの将棋では、不利になってしまうわ。すぐ時間がなくなってしまうから」
「でも、なにかあるんですよね?」
「そう、もし、彼が時間をうまく使えるようになったら? 読みのスピードが一気に上がったら? 最強の怪物が誕生するわ」
「……」
「そして、彼は覚醒をはじめている」
部長は少し遠い目をしていた。
「葵ちゃんとの練習対局がかなり効いていたみたい。やっぱり、才能は才能を刺激し合うのね。うらやましいわ。私はしょせん持たざる者だから、ね」
「部長が才能無かったら、俺たちはどうすればいいんですか」
「でも、そう思うほど、彼の将棋は深すぎる。一体、どこまで読めているのか。本人も制御できていないはずよ。その深さを感覚的に操作できたら、間違いなく怪物が生まれてしまう」
「私はフランケンシュタイン博士みたいな気持ちよ」




