第二十二話 新メンバー③
「よし、これで完成だね」
「やったー」
再び駒の再配置を終えたおれたちは一息つく。源さんは、おれの駒の並び方を見よう見まねで並べていた。親についてくるカルガモの子供みたいで正直かなり癒された。さっきの惨劇からは、やっと解放される。
ちなみに、さっきの問いについては、おれが「仲の良いお友達です♡」という言い訳でごまかしておいた。どこのフライデ〇された芸能人だよ……。自分で言っておいて、何を言ってるんだこいつとなっている……。
さて、気を取りなおして……。
「じゃあ、次は簡単に戦法について教えるね」
「は、はい」
そう言って彼女はメモの準備をはじめた。初期配置と駒の動きに関してまとめたプリントはおれがあげたので、大丈夫だろう。
「将棋には、大きく分けて2つの戦法があるんだ。それが、居飛車と振り飛車」
「いびしゃ? ふりびしゃ?」
かなり戸惑っていらっしゃる。
「名前は難しいけど、理屈は簡単だよ」
「は、はい」
「まず、居飛車は、飛車を初期配置からあまり動かさないで、縦に活用する戦法。そして、振り飛車は、飛車を中央より左側に移動させて、飛車を横に活用させる戦法のこと。おれは、居飛車党で、部長が振り飛車党だよ」
「縦と横の違いですか?」
「極論を言えばそうだね。そして、居飛車のほうが飛車を動かさずに一手得をできるから、主導権を握りやすいと言える。反対に、振り飛車は一手損する代わりに飛車を防御に使いやすくなり、カウンターを成功させやすくなるんだ」
「攻撃的なものが居飛車、守備的なものが振り飛車というイメージで大丈夫ですか?」
「うん、それ」
やはり、物覚えがすごくいい。すぐにおれの言いたいことをイメージできる。
「おぼえる量としては、どちらかと言えば居飛車が多くて、振り飛車が少ない」
「じゃあ、初心者は振り飛車がおすすめなんですね」
「そうなんだけど、実は、そうじゃないんだ」
「えっ?」
矛盾するような言い回しで少し混乱させてしまった。ひとに教えるのは難しい。
「振り飛車のカウンターには、どうやって攻撃すればいいのかをおぼえないと成立しない手順が多いんだ。だから、基本となる戦法で一度攻撃のやり方をおぼえてからのほうがいい」
「じゃあ、それが今日教えてくれる戦法ですね」
察しが良くて困ってしまう。
「そう、それが「棒銀」と「原始中飛車」だ」
「ぼうぎん? なかびしゃ?」
「居飛車と振り飛車の基本となる戦法だよ」
おれは、戦法を教えるために、盤面を整える。
―――――――――――――――――――――――
用語解説
居飛車……
飛車を初期位置から動かさないで、縦に使う戦法。手損がないため、主導権を握りやすい。しかし、定跡が詳細に整備されているため、知識量を問われることが多い。
振り飛車……
飛車を初期位置から横に動かすことで、横に使う戦法。手損が発生するため、カウンター主体になりやすい。飛車が防御に回りやすいので、守備陣を作りやすい。
(原始)棒銀……
居飛車の戦法。銀を飛車の前に繰り出して、どんどん前進させて防御陣を食い破る。
(原始)中飛車……
振り飛車の戦法。飛車を中央に配置して、強烈なカウンターを狙っていく。
陣形的にバランスをとりやすく、守備も固めやすい。そのうえ、カウンターによる攻撃力も高いので初級者同士だと、必勝の戦法に近い。
ただし、狙いが単純なので、上級者以上になると工夫が必要になる。




