表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

219/531

第二百十九話 それぞれの思い

 立川さんは、()()()()()()で妥協して、攻撃に転じる姿勢を見せた。

 予想通りだ。


挿絵(By みてみん)


 簡易的な穴熊とはいえ、固さは普通の囲いよりも十分に強い。()()()、相手に主導権を握られる展開だ。プロの実力なら居飛車側が有利だろうが、同レベルなら振り飛車のほうが勝ちやすいんじゃないか。おれは少し不安が生まれていく。


 しかし、ここは俺の得意な受けの局面だ。どんとこい。

 強気にそう思うしかない。


 ついに、歩同士が激突する。盤面全体で戦線が生まれていく。

 猛攻が始まった。


 立川さんの攻撃は、歩を中心におこなわれた。継ぎ歩、たれ歩、ダンスの歩。いくつもの手筋が融合し、攻撃力がどんどん増していく。この歩の手筋がうまいと連続攻撃が最小限の戦力でつなげることができる。まさに、お手本のような猛攻だ。


 どうやっても陣形に穴が生まれ、対応しても対応しても小さな穴が()()()()()()()()()()。おれも、なんとかカウンターの足掛かりは作っているのだが、まだ手番は回ってこない。


 強い。

 素直にそう思った。


 たゆまない攻撃をつなげていく技術。まるで、葵ちゃんの将棋をみているようだ。


 ※


 よし、今日は絶好調だ。佐藤さんの陣形は、どんどん水漏れをおこして弱体化していく。攻撃の手番も私が持っているので、どう考えても私が有利。これがあこがれのひとの分身だと考えると、私はかなり成長している。


 そして、確信した。私の実力は、彼女らに届きうるということに。


 今日のこの日まで、ずっと将棋を勉強してきた。目標とするひとに追いつくため。

 彼女とは中学の時の大会で出会った。関東大会。その圧倒的な指しまわし、人間的な棋譜に私は魅了された。

 いつかは彼女に公式戦で勝ちたい。だから、越境入学までして、この学校にははいったのだ。


 通学中の時間はずっと詰将棋に没頭し、家に帰ったら棋譜並べ。

 ストイックな訓練を続けた。


 目の前の彼を倒したら、次はいよいよ彼女だ。

 米山香。


 わたしはずっと夢見てきた人の名前を心の中で叫んだ。


 ※


「にいさん……」

 私は、みんなと離れて、ひとりで対局の様子を見ていた。

 状況は少しずつ悪くなっている。自分が負けた時の将棋を思い出す。

 あのトラウマからまだ抜け出せていない。


 こんなうじうじした状態をみんなに見せたら悪影響になってしまう。

 だから、ひとりでここにいる。


 助けてくれる王子様なんて存在しない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ