第二百十八話 穴熊と真実
「このままいくと、間違いなく相穴熊ね」
部長は、真剣な顔をして、盤面を見つめている。相穴熊。居飛車・振り飛車の双方が、穴熊にもぐった状態のことだ。
「でも、相穴熊って、居飛車側が有利なんですよね?」
私は穴熊はやらないので、よくわからないんだけど、本にはいつもそう書いてあった。
「基本はそうね」
部長はうなづき肯定する。その後に文人先輩が続いた。
「いくつか理由はあるんだけど、居飛車のほうが主導権を握りやすいうえに、守備に角が加わっているのが大きいな。守備力・仕掛けのやり方ともに居飛車穴熊のほうがわかりやすいからそう言われているんだ」
先輩たちが答えてくれる。
「じゃあ、どうして立川さんは、振り飛車穴熊を採用したんですか? 普通に考えたら、不利な定跡ですよね」
私は当たり前の疑問をぶつけた。
「それは、専門家に聞いた方がいいかもね」
部長は含みのある笑顔を浮かべる。
「せんもんか?」
「ね? 高柳先生?」
部長はいたずらっ子な顔になって話を先生に振った。
私は、顧問の先生が苦笑しているのを見つめる。なぜ、先生が振り飛車穴熊の専門家と結びつくのだろうか。
「振り飛車穴熊は、守備力が居飛車側と比べて低い。だから、強引にでもしかけていかなくちゃいけない戦法なんだよ」
先生は観念したように、説明をはじめた。
「特に、立川さんのあの陣形は、かなり指し慣れている人しか作れない陣形だよ。守備力が低くなるのを妥協して、主導権は奪い返している感じだね」
「そう、なんですか」
「これは、確実に……」
先生は表情を曇らせる。
「そうね」
部長も、全てを聞く前にうなづいた。
「桂太くんが受けまくる展開になるだろうね」
「さすがは、元アマ名人ですね。そして、振り飛車穴熊の専門家なだけあります」
部長はそう言って先生を褒めた。
褒めた。
ほめ……
「ええええええええええええええええええええええええええええ」
私の頭の中で、先生が振り飛車穴熊の専門家で、アマチュア名人であることがやっとつながった
「それに、プロにも公式戦にも出場して勝ってる。というか、勝ち越している」
「えええええええええええええええええええええええええ」




