第二百十六話 最終局
おれが先についたようだ。席に座って、相手を待つ。文人と葵ちゃんのおかげで、優勝という夢になんとか食いつなぐことができた。現在のスコアは2対2。この対局が、優勝の行方を決定する対局だ。
今まで無敗を誇った千城高校をここまで追い詰めたのはたぶん、おれたちが初めてだ。
この10年間、誰もなし得ることができなかった絶対王者を土俵際まで追い込むことができた。ここで勝つことですべての願いが成就する。
胸がドキドキする。おれたちの県で、最強と言ったら千城高校将棋部だ。そこはあこがれの名門でもあり、目標とすべきライバルでもあり続けた。
そして、いま、その目標まで手が届きそうな位置におれたちはいる。
おれの相手の立川さんは、四間飛車の使い手だ。県外から進学してきたので、まだ手合わせしたことはないが、越境入学ということを考えても相当な強さを持つ。そもそも、あの高校のレギュラーになれただけでも相当に強い。現に、前回の県大会ではベスト8。
お互いに2年生ということもあって、意識していないと言えばうそになる。会ったことはないけど、ライバルみたいな認識を持っている。
だが、俺は四間飛車対策に絶対の自信がある。県最強、いや高校生最強の四間飛車の名手米山香と毎日研究しているのだ。自信がなくてどうする。それじゃあ、部長やみんなに申し訳が立たない。
お互いの戦型は指す前からわかっていた。
先手の四間飛車。
後手の居飛車持久戦、つまりは「居飛車穴熊」。
「あなたが佐藤さんですね」
女性の声がした。
立川さんだ。
「はい」
「よかった。立川です。今日はよろしくお願いします」
「丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
「実は、わたしはずっとあなたを意識していたんですよ。同級生だし、この前の大会でも活躍してたから」
「嬉しいです。自分もです」
「今日は、正々堂々、正面から戦いましょうね。良い戦いになるといいのですが」
「はい、お互いに全力をつくしましょう」
いつになく和やかな雰囲気だ。
これはいい戦いになる予感がする。
先手は、立川さんになった。
初手は、やはり「7六歩」。
お互いにエース戦法を投入した総力戦がはじまろうとしている。
歴史は変わるのか。それとも、続くのか。
すべては、この対局の結果次第だ。




