第二百十一話 倒す
「無理攻め?」
最初の直感は一言でいえばそれだった。どう考えてもつながるはずがない。
やぶれかぶれの突撃だろう。冷静に対処すれば、こんな攻めどうとでもなる。
私が冷静に対処すると、源さんはさらに攻撃をつなげていく。
それは、ピンホールのような小さな小さないくつもの穴を連続で通すかのような攻撃で……
とても、とても美しかった。
対戦相手すら魅了するその攻撃は、次々と繰り出される。
細かい攻撃をつなげていく技術。いや、これは技術ではない。もはや”感性”だ。彼女以外は、この手順を真似できないだろう。駒を持つ手は震えてぎこちない。彼女は将棋を初めてそんなに時間が経過していない証拠だ。どこかぎこちないその将棋は、的確に攻撃をつなげていく。アンバランスなその光景をみていると不思議な気持ちになる。初心者時代の将棋が楽しくて楽しくてしょうがないようなその姿勢と、そこから繰り出される老練な継続手の連続は本当に奇跡のような、将棋。
自分がそれをできないことに嫉妬はおぼえる。でも、それを上回るくらいに見とれてしまう。
この将棋をもっと長く指していたい。不思議とそう思った。
※
考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える、考える。
私はひたすら手順を確認する。無理攻めに近い形だが、私の考える手順であればギリギリ繋がっている。そう信じて、私は攻め続けた。
桂太先輩と家で指した時のように少しずつ無意識に駒が進んでいく。それはとても心地よい気分にもなっていく。
好き、好き、好き。
私は、将棋が大好き。
そして、彼のことも……
私の思考スピードは上限にまで達した。ここが将棋の「神」が存在していると言われる領域。
その世界にあったのは、桂太先輩の笑顔だった。
考える速度すら、もう追いつかない。私はすべてを追い抜いて、ひとつだけしか求めない。
この先にある勝利、そして、さらに先にある未来。
県の中学王者? 将棋歴? 実績?
そんなものは、もう関係ない。私を邪魔するものはすべて、倒す。




