第二十一話 新メンバー②
「成るっていうのは、敵の陣地に入ったら駒が裏返るやつですよね」
「そう、正解。敵の陣地に、入ったら裏返ることだよ」
「これで、裏返った駒はどんな動きになるのか、わかる?」
「ええと、金と同じ動きになります」
「正解。やっぱり、優秀だね」
「えへへー」
かわいい、やっぱり後輩かわいすぎっ。
そんなことを考えていると、突然、イスに衝撃が走る。
「痛」
後ろを振り返ると部長がいた。
「ああ、ごめん、ごめん。大事な新入生を口説いている不届き者がいたから、少し制裁を……」
「口説いてませんよ」
「えっ、私、口説かれてたんですか?」
「違うよ」
ツッコミが追いつかない。
「でも」
ここで話が終わると思った瞬間、源さんの口が開いた。
「「えっ」」
「先輩になら、口説かれてもいいかなって……」
源さんは、はにかみながらそう言った。その刹那、おれの首には強烈な重力が……。
「部長権限で、軍事裁判をすっ飛ばして、処刑してあげるわ」
「部長、ダメです。ほんとにきついですよー」
「なーんちゃってっ」
後輩小悪魔がそう言うのは、少しばかり遅すぎたようだ。この1週間でおれは何度死ぬのだろうか……。
※
「ごめんなさい、悪ノリしちゃいました……」
そうやって、シューンとなっている源さんを見ていると、心が浄化される。
「大丈夫、大丈夫……。むしろ、うちとけられて、とても嬉しいよ」
「それなら、よかったです……」
お互いにすこし、しんみりしてしまったが、さきほどの話の続きに再開する。
「じゃあ、さっきの続きだけど、飛車と角が成って、竜と馬になったらどうなるか、わかる?」
「ええと、たしか……。いままで動けなかった方向に1マスだけ動けるようになるんですよね」
「そうそう。すごいな。この前、教えたこと全部おぼえてるね」
「佐藤先輩の教え方がうまいんですよ」
「桂太でいいよ。かな恵と区別つきにくいだろう?」
「じゃ、じゃあ、桂太先輩のおかげです」
そう言いなおすのが、とてもかわいかった。ああ、役得だ。
「じゃあ、次は初期局面を作ってみようか。飛車と角の位置、金と銀の位置が入れ替わりやすいからきをつけてね」
「は、はい」
ここが、初心者の人が間違えやすいところだ。初心者同士の対局を上級者がのぞいてみたら、飛車と角が逆でずっと進んでいたなんて笑い話もよくある。
「あ、あの? 桂太先輩? 聞いてもいいですか?」
このなれない先輩感がすごくいい。
「なに? なんでも聞いて」
「先輩と、桂太先輩と米山部長ってお付き合いされているんですか?」
もちろん、顔を真っ赤にした部長が、せっかく並べた駒をぶちまけたことはみなさんの予想の通りである……。もうやだ、こんな部活……。




