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第二百九話 焦土の後の荒野

 なんとか第一波の攻撃は終わった。

 駒損になりながらも、なんとか食らいついている。しかし、形勢は、私が()()()悪かった。そもそも攻撃を仕掛ける展開が思いつかないのだ。一方的に陣形をボコボコにされていて、対処療法的にその穴を塞ぐことしかできていなかった。


 さらに……

 第一波で稼がれた駒によって続けざまに次の攻撃が飛んでくるのだ。


 どうにかして、突破口を開きたい。

 でも、山瀬さんの激しい連続攻撃でその隙は見つからなかった。


「防戦一方という感じね。持ち味の鋭い終盤戦まで、はたして持つのかしら?」

 彼女は血に飢えたオオカミのような形相でこちらをのぞきこむ。

 なんと好戦的な笑顔なんだろうか。それは、獲物を捕らえた後の野生のハンターのような勝ち誇った顔をしている。


 この流れるような駒捌きと攻撃を繋げていく技術。

 うちの高校の部員は、強豪が多いけれども、ここまで鮮やかに攻めを繋げる技術をもったひとはいない。部長や桂太先輩が、受け将棋だということもあるのだろうけど……


 さすがに、超強豪である千城高校で1年でレギュラーを獲得し、県の中学大会3連覇は伊達じゃない。

 私のようなにわか仕込みの、薄い将棋じゃなくて、確かな信念のある将棋だった。幹がしっかりしているから強い。


 どちらかというと、私はでたらめな将棋だ。

 まだ、定跡も完璧じゃないし、終盤力だけで勝負する野蛮な将棋。

 戦法を絞って、終盤まで遅れずについていって、最後はひっくり返す。そんな勝負ばかりだった。

 だから、この勝負は私にとってはじめての大きな壁になっている。


 練習将棋なら、いつも近くで支えてくれる桂太先輩や部長にも頼ることはできない。

 そして、ここで負けてしまえば、終わり。

 ()()()


「ねえ、なんで源さんは、()()()しか指さないの?」

「えっ」

「それじゃあ、簡単に対策されちゃうじゃない。この将棋みたいにね」

「それは……」

「それは?」


 私は、まだ短い将棋人生を振り返った。

 この戦法をはじめたのは桂太先輩の何気ないひとことだった。


 ※


「中飛車がいいんじゃない」

 


 ※


 この一言から、私は中飛車を専門にした。

 あれがなかったら、もしかすると得意戦法は「四間飛車」か「嬉野流」になっていたかもしれない。


 それから、桂太先輩との特訓が始まった。

 彼が家に来てくれたこともある。


 それは、それは幸せなひと時だった。

 思いだすだけで、心が温かくなる。


(きずな)だから」

「へー、そうなんだ」

 山瀬さんは、自分で聞いておきながらつまらなさそうにしている。

 私は自陣に飛車を打ちこむ。徹底抗戦だ。

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