第二百六話 新世代の激突
私は後手となった。
しかし、使う戦法は変わらない。
いつも通り「中飛車」でいく。
「へー、やっぱり中飛車なのね。まるで、中飛車おじさんみたいなひとね、あなたは?」
山瀬さんはまるで、小姑のように難癖をつけてくる。ちょっと、めんどくさい。というか、高校1年生に向かって、おじさん呼ばわりって……
この人には負けたくない。
いくら強い人でも、絶対に負けたくない。
「でも、残念。わたしって、振り飛車党なのよね~これってどういう意味だかわかる?」
「……」
「わからなさそうにみえるわね。じゃあ、教えてあげる」
彼女は、自分の飛車に手を伸ばす。その飛車を持ったまま、手は横に移動していく。
三間飛車の位置に飛車を置いた。これは相振り飛車……
「これが中飛車、最悪の天敵、相振り飛車よ」
彼女は自信満々の笑顔でそう言った。
※
中飛車vs三間飛車。
中飛車の天敵は、相振り飛車と古くから言われている。
中飛車は、相手が振り飛車だと中央突破が難しくなり、飛車の場所が悪くて、相手と比べて相対的に守備力が低くなってしまう。
やはり、中学王者は伊達じゃない。
でも、中飛車が三間飛車に弱いと言われていた時代は、もう過去のものだ。
ちゃんと対策はある。
葵ちゃんが、はたしてそれを使いこなせるのか。それだけが心配だった。
だって、あれは中飛車であって、中飛車じゃないんだから……
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人物紹介
山瀬 茜……
高校1年生の女子。元中学王者。
アマ四段。
言動はやや過激だが、裏表なく友だちも多い。
中学時代は、前人未到の県大会3連覇。圧倒的な実力で、鳴り物入りで千城高校入学。
強豪の千城高校で、1週間でレギュラーを獲得する。
まだ、粗削りだが、ポテンシャルの高さは随一。
言動とは裏腹に堅実な棋風で、取りこぼしも少ない。
得意戦法は、振り飛車全般
用語解説
中飛車おじさん……
中飛車大好きなひとのこと。将棋道場などによく生息しており、どんな戦法が来ようと中飛車を採用し続けることから生まれた言葉。バカにされる時によく使われるが、普通に一戦法のスペシャリストのため、戦うと強い。




