第二十話 新メンバー
3話ほど、将棋入門的な話になっております。
おれたちが、練習将棋をしていると「できました」という元気が良い声が聞こえた。もちろん、源さんだ。たぶん、まだ30分くらいしか経っていない。
おれ以外の部員一同は驚き言葉を失っていた。みんな、自分の初心者時代と比較しているのだろう。
「そう、この子の終盤力は規格外だ」
何人かの部員が、問題集の問題をだしてみるが、彼女はすらすらと答えを導き出した。問題集にでていない問題にまで、質問は及ぶが彼女を止めることはできなかった。
おれも、おそるおそる13詰めを出してみる。
彼女は、それを確認すると5分ほど悩んで、正答を導いた。
「桂太くん、ちょっといい?」
部長は、少し顔面を白くしておれを呼びだした。
「うわさ以上ね」
「はい」
「彼女はまちがいなく天才よ」
「もちろんです」
「もしかしたら、夏の大会までにものにできるかもしれない」
「……」
「がんばってね」
「は、い」
責任重大だ。
部室にもどると、部員たちに彼女は取り囲まれていた。
「本当に初心者?」「はい」
「居飛車党? 振り飛車党?」「ごめんなさい、ちょっとわからないです」
「ご両親が、将棋のプロとか?」「ただのサラリーマンですけど……」
「よし、みんな戻れ。源さんが戸惑ってるだろう」
「えー」
そういって、みんなが戻っていく。
「じゃあ、源さん? 簡単に駒の動かし方を復習して、将棋の勉強をはじめようか!」
「は、はい。お願いします」
「最初に、簡単に駒の動きからね。この前の復習がてら聞いてね」
「はい」
そして、おれは、盤に駒を並べ始める。
「まず、①が王。自分のこれが取られた負けになる駒だね。逆にあいての王を取ったら、勝ちだよ。この駒は全方位に1つずつ動けるんだ」
「そして、②が歩。これは、両陣営に9枚ずつと一番たくさんある駒で、前に1歩ずつしか動けない駒だ。最弱の駒だけど、上級者以上はこの使い方がとってもうまいんだ。3枚もあれば無限のコンボの可能性を秘めているするめのような味わいがある」
「③が金。これは、両方に2枚ある駒だよ。王様の護衛役で、いつもそばにいる駒だよ。後ろ斜め以外には、どのマスにもひとつだけ進める。終盤になればなるほど、攻撃力も上がっていき、強い駒になるね」
「④が銀。これも両方に2枚ずつある。これは、1枚は攻撃用、もう1枚は防御用に使うことが多いね。真横と真後ろ以外の方向に動ける駒だ」
「⑤が桂馬。これはトリッキーな動きをする駒で、前の矢印があるところに動けるんだ。この間に駒があっても、唯一ワープできる駒だね。これも両方に2枚」
「⑥が香車だ。これはひたすら、前方向なら何マスでも動ける。槍みたいな駒だよ。これも両方に2枚」
「わかりました」
この前の対局だと、金と銀の違いがあやふやだった様子なので、そこを特に丁寧に説明した。
「次は、大駒を説明しよう。⑦の飛車。これは将棋最強の駒で、初心者同士の対局では、これを取った方の勝ちになることが多い。縦と横ならどこまでも進める」
「最後は➇の角。これは、斜めならどこまでいけるんだ。飛車に比べると地味だけど、上級者同士の戦いになると、こいつをうまく活用できるかどうかが勝負を分けるんだ」
「どう? だいたいおぼえられた?」
おれがそう聞くと、彼女は遠慮がちにうなづいた。素直で教えがいがある反応だ。
「は、はい」
「よし、じゃあ、次は駒が成ることを説明するね」




