第百九十七話 シルバーコレクター
「やっと来たのかい? じゃあ、公開処刑を終わらせようか」
俺が席に着くと、すでに橋田さんは席に座ってニヤニヤと待っていた。
この人は、いろいろと問題が多い人だと聞いている。
山田さんは、米山部長と同じ世代でいつもトップで競い合ってきた関係なのだが…… もしかすると、ライバル関係と劣等感が、性格形成に影響を与えてしまったのかもしれない。そんな予感がする。
橋田聡。高校三年生。
この県では、最強グループを形成している個人戦優勝候補の一角。
しかし、彼には不名誉なあだ名もある。
それは……
「おいおい、いくら俺が<シルバーコレクター>だって言われていても、お前くらい簡単に吹き飛ばせるんだからな。わかってるのか?」
そうこのあだ名だ。
彼は、県下の大会で優秀な成績を残している。だが、一度も優勝したことがないのだ。
毎回、決勝か準決勝で、あのふたりのどちらかに負けてしまう。だから、シルバーコレクター。
同年代に彼らたちがいなければ、彼の時代だったはずなのに。
そう思うほど、彼の将棋の棋譜は正統派だった。
部長は終盤の粘り、山田さんは序盤の巧さが特徴的だが、この人は特徴がつかみにくい。中盤に形成を良くしたら、あとは最善手・次善手をつみ重ねて、いつの間にか勝ってしまう。そんな将棋が多い。格上にはなかなか勝てないが、取りこぼしも少ない堅実な棋風。
つまり、2連敗しているおれたちにとって、一番嫌な相手だともいえる。隙がないのだ。
「そんな失礼なことは考えていませんよ」
「そうか。ならいいんだけどよ。まあ、いいや。早く始めようぜ。」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、よろしくお願いします」
こういう挨拶は、ちゃんと返すのだから根は悪い人じゃないんだろうけどね。
さあ、ここからは集中だ。
ここからは絶対に負けられない戦いになる。
おれは、いつもの初手を動かした。
狙うは角換わりだ。
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人物紹介
橋田聡……
高校三年生。アマ四段。
本格派の居飛車党で、得意戦法は角換わりと横歩取り。
口が悪いのが欠点だが、根はそんなに悪いわけではない。
バランスの取れた棋風で、欠点のない将棋を指す。
序盤の山田・終盤の米山と比較されて、中盤の橋田とも言われるが、本人はあまり好きではないとのこと。




