表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/531

第百九十六話 投了

 私は無残な姿になってしまった自陣を見ながら、それでも投了しなかった。


「なあ、もう逆転の可能性ないだろう?」

「うん、もう無理だよ。入玉は成功したし、後手に打開の手段はないね」

「じゃあ、なんであの子は投了しないんだろうな」

「もう、引き返せないんじゃね」

「そうかもな」

 外野もざわついてきた。

 みんな、みんなうるさい。


 今回は、もうみっともなく負けが確定するまで指し続けるって決めたのだから。

 これをすれば何か変われるのかもしれない。

 北沢さんには、迷惑かもしれないけど、どうしても指し続けたかった。


 もう負けが確定する盤面だ。

 私は処刑台にのぼっていく。決勝の舞台の13階段は、とても短く感じた。


 頭金。

 王の上に相手の金が置かれる。もう逃げ場所はなくなった。

 できることはひとつしかないのだ。


「まけ、ましたぁ」

 私は、感情を爆発させながら、敗北を宣言した。

 これで、すべてが終わった。


「ありがとうございました」

 北沢さんは、安心したように挨拶を返してくれた。


 私は負けたんだ。

 完膚なき醜い敗北を……


 短い感想戦を終えて、私は控え席に戻るのだった。

 感想戦で何を話したかは、もう覚えていない。


 冷たい廊下で、私はひとりになってつぶやいた。


「勝てばいいんだよね、勝てば……」

 鏡でみたわたしの目は、冷たく濁っていた。


 ※


「うわ~千城高校。2連勝か~やっぱり強すぎるな」

「だよな。米山も負けたし、もう相手はムリゲーだよな」

「そうそう、次の対戦相手だって、橋田だしな。前回の県3位じゃん。対するは、丸内文人なんて、誰だって感じだろう?」

「ああ、まったくの無名だよな。せめて、県ベスト8の佐藤とか、あのすごい1年生女子だったらまだ可能性あったのにな」

「うんうん。明らかにムリゲー臭がする」


 やっぱりか。

 おれは、自販機で買ったお茶を飲み干した。ヤケのみだ。

 だって、そうだろう?

 俺は、あまりに無名すぎて、陰口の当事者たちだって気がついていないのだから。


 屈辱的な扱いだ。まるで、モブキャラだろう?

 でも、俺はHEROにならなくちゃいけないんだよ。


 だって、ここで負けたら大会が終わっちまう。

 最高の舞台が用意されたと考えるしかないじゃないか。

 大丈夫、あの「プロ殺し」に教わった将棋を思いだせ。どんなに醜くて、情けない将棋だって、勝ってやる。


 さあ、対局場に向かおう。もうすぐ、決勝戦()()()()

 これを()()()にはさせるわけにはいかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ