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第百九十五話 崩れていく自信

(ダメだ、捕まえられない)

 私は、絶望感に包まれる。

 北沢さんの玉は、グイグイと前進してくるのだ。私は何とかその進軍を止めようとするものの、散発的な妨害しかできていない。


 彼女の陣形は、すき間なく王を防衛して、それが攻撃力にもなっている。スクラムをがっしり固めて、前へ前へと動いていく動作は、将棋の常識外にある動きだ。奇襲が大好きな私でも、考えていなかった常識外の選択肢。


 私が「歩」の防波堤を作って、少しでも天空城の進軍を遅延させようとした。

 しかし、それも焼け石に水。


 歩と金銀の城の外壁によって、私の作った防波堤は簡単に飲みこまれていく。

 もう、どうしようもない。


 この盤上は、私と兄さんの関係のようだ。

 私が大好きな兄さんは、私が躊躇している間に、部長と仲良くなってしまう。

 将棋の才能では、私は唯一無二の存在でもない。


 単純な実力で言えば、米山部長のほうが私よりもはるかに上で……

 才能を考えてしまえば、圧倒的なものを持っている葵ちゃんがいる。


 じゃあ、私の存在意義ってなんなんだろうか。


 兄さんとこのまま義理の妹というよくわからない存在でいいのだろうか。

 たぶん、このままでいけば兄さんと遠い存在になってしまう。


 それでいいの?

 自分に問いかける。


 答えは……


 出なかった。


 すべての防衛ラインを突破した北沢さんの天空城はボロボロになりながらも、私の陣地に入城した。

 どうして、こんなに力強い将棋が指せるのだろうか?


挿絵(By みてみん)


 対局相手の顔を見つめた。

 彼女は、口をパクパクさせながら聞こえない声で何度もつぶやいていたのだ。


「か……ないと、……ち……い」

 その顔は本当に真剣で苦しそうで、でも凛々しかった。

 私は、その様子がとても羨ましいものに思えた。私にないものを彼女は全部持っている。


「勝たないと、勝ちたい、負けたくない。ここで終わりたくない」

 彼女の声は少しだけ大きなっていた。


 すべての面で私は彼女に負けたのだ。

 覚悟・将棋に対する思い・みんなとの絆……


 将棋は技術だけではない。

 いろんなものが必要なのだ。


 私はこの場所にいるべき人間じゃなかったのかもしれない。

 勝利への執念も足りなかった。


 でも、勝たなくちゃいけなかった。

 そうしなくてはいけなかったのに。


 破れかぶれになった私は、相手の陣地に向けて、自玉を突撃させた。

 無謀な一手だった。


 相手のミスを期待して、持将棋を狙う醜い将棋。

 それはまるで私自身のことのようだった。


「わたしって本当に醜いな」

 涙でにじんだ盤上は、なにも見えなかった。

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